来春の統一地方選への動きが各地で活発だが、23年4月に行われる静岡市長選に、元静岡県副知事の難波喬司氏が立候補することになった。これが「品川─名古屋間、夢の40分」を謳い「リニア中央新幹線」開通を目指すJR東海や、それを促進する神奈川など周辺各知事、国交省関係者らを不安のドン底に突き落としている。静岡県議が言う。
「難波氏が11月11日に正式に立候補を表明した一方、現職の田辺信宏市長は4期目に挑むとみられていましたが、最近になって周囲に不出馬の意向を漏らしているといいます。地元経済界や支援者の一部が難波氏支持に鞍替えし、田辺市長に勝ち目がなくなったための戦意喪失とも囁かれています」
それにしても、難波氏出馬がなぜ、リニア鉄道関係者を絶望させているのか。社会部記者が言う。
「リニア中央新幹線は14年に認可されてから8年が経過し、27年開業を目指して工事が進められています。ところがこの工事、途中までは順調でしたが、『待った』をかけたのが静岡県の川勝平太知事だった。トンネル工事によって大井川が減水し、県内の基幹産業である茶の栽培に大きな影響を与えかねないという理由で着工を認めず、話し合いも平行線のまま2年近くが過ぎてしまった。その川勝知事の右腕としてリニア工事反対の陣頭指揮をとってきたのが、難波元副知事なんです」
では、仮に難波氏が市長になると、どうなるのか。先の静岡県議によれば、
「リニアのトンネル工事が本格化すれば、必要な法令手続きは全て、静岡市の権限となる。市がクビをタテに振らなければ、1ミリたりとも工事は前に進みません」
頭を抱えるのはJR東海だ。鉄道関係者が吐露する。
「27年の開業はもはや無理でしょう。最近は資材や人件費が高騰して予算が膨れ上がり、JR東海はアップアップ状態。それでも開業が見通せるなら救われるが、静岡県と静岡市にタッグを組まれて反対されれば、お先真っ暗ですよ」
「リニア新幹線」はJR東海の事業ながら、国家プロジェクトにも匹敵する規模。その工事が宙に浮けば、国としても大きな損失となる。とはいえ、多くの問題を抱える岸田政権にとっては、二の次だろう。静岡選出の上川陽子氏、細野豪志氏、城内実氏など有力国会議員らも音無しだ。
地元の不満や不安を救い上げつつソフトランディングさせる、政治の底力が求められる。
(田村建光)