北朝鮮によるミサイル挑発が止まらない。朝鮮中央テレビは、ミサイル発射現場に金正恩朝鮮労働党総書記(38)が実の娘を伴い、表敬訪問した様子を公開。これまでベールに包まれていた“後継者”の突然のお披露目が波紋を呼んでいるのだ。
11月18日、北朝鮮の発射した大陸間弾道ミサイル(ICBM)「火星17」が日本の排他的経済水域(EEZ)の内側に落下した。北朝鮮のミサイルが日本のEEZ内に落下したのは、3月24日のICBM以来今年2度目だが、11月2日には、南北の海上軍事境界線を越えて韓国の領海近くにもミサイルを着弾させている。
周辺国に向けてなにやら挑発的な動きを強めている北朝鮮だが、今回、「発射に成功した」というニュース以上に注目を集めたのは金総書記の「娘」だった。金総書記そっくりの少女が、発射を視察する総書記と李雪主夫人に同行していた様子をテレビで御覧になった向きも多いだろう。
発射当日の朝鮮中央通信は、火星17の発射を「成功」と伝え、「(金総書記が)愛するご息女や女史と共に登場され、発射の過程を指導された」と報じた。総書記一家がまだ10歳前後とみられる娘を公開するのは初めてで、極めて異例の出来事と言える。
金総書記が火星17の成功と娘の写真を同時に公開した狙いについて、米国のシンクタンクや韓国の安全保障関係者の間では、「核の保有を次世代以降にも引き継がせるという意志を示した」「自分の後継者を明らかにした」などの見方がなされている。長らく朝鮮半島事情を取材している東京新聞論説委員の五味洋治氏が解説する。
「在韓米軍に最新兵器を集中させ“金正恩斬首作戦”までチラつかせる米国に対し、『核開発の技術はほぼ完成しており、次世代にも引き継いでいく』とのアピールでしょう」
金総書記は2018年3月に訪朝した米国のポンペオCIA長官(当時)に「私の子供たちが生涯にわたり核を持って生きることは望まない」と述べるなど、非核化の考えがあるかのように語った。しかし、今年9月に先制攻撃を法制化。さらに今回、ICBM発射場に幼い娘まで連れ出したことで、18年の非核化発言が本音ではなかったことが明らかになった。五味氏がさらに続けてこう話す。
「後継者お披露目説については少し懐疑的です。普通に考えれば、後継は男の子になると思えます」
韓国の情報当局や北朝鮮の内部事情に詳しい情報筋などによると、金総書記と李雪主氏は09年に結婚。李雪主氏は10年に息子、12年頃に娘、20年頃に娘を出産し、1男2女を持つという。今回写真が公開された娘は12年頃に生まれた長女と見られている。13年に米国の元NBA(全米プロバスケットボール)選手デニス・ロッドマン氏が金総書記の招待を受けて訪朝した際、「私は彼らの娘ジュエを抱いた」と伝えたことから、名前は「キム・ジュエ」と推定されている。
「男の子を顔出しで公表してしまうと、外国留学などの際に支障を来すし、命を狙われる可能性もある。そのために隠しておいて、今回はあえて長女と見られる女の子を公開したと思われます」(五味氏)
金総書記の長男については、元北朝鮮軍幹部出身脱北者の証言などから「キム・ジュウン」という名前であることは伝わっているが、それ以外についてはベールに包まれている。韓国の情報当局も平壌での行跡を捕捉しておらず、「海外に留学している可能性がある」との見方を示しているが、五味氏の見解は少し違う。
「父親の金総書記も10代の時はスイスに留学していましたが、当時と違って今は、北朝鮮指導者の子供が海外にいるとなれば世界の情報機関がすぐに感知します。その情報網に引っ掛かっていないわけですから、国内にいる可能性が高いと思います」
いずれにせよ、今後の北朝鮮を見ていく上では、核・ミサイル技術の面だけでなく、“後継候補”たちの動静も念頭に置く必要があるだろう。