追越車線に突然、低速で割り込んでくる大型トラック。前回指摘したように、中には追い越しをかける一般ドライバーらへの当てつけ行為として、わざと危険な割り込みを行う愉快犯トラッカーや確信犯トラッカーも、一部ながら存在する。
だが、死に直結する高速道路での追突クラッシュ事故は、時に一般ドライバー側のイライラが遠因となるケースもある。交通事故の発生メカニズムに詳しい専門家は、
「現在、大型トラックや大型トレーラーには、時速90キロを超えて加速できない速度制限装置(スピードリミッター)の設置が義務づけられています。そのため、例えば85キロで走行する大型トラックを別の大型トラックが追い越す場合、大型トラック同士の速度差は最大でも5キロしか取れない計算になってきます」
こう指摘した上で、次のように警告するのだ。
「高速道路には、緩やかな上り坂が長く続く区間があります。このような区間で大型トラックが追い越しをかけた場合、追い越される大型トラックとの速度差はさらに小さくなる。その結果、追い越される大型トラックと追い越す大型トラックが、例えば10分以上にわたって走行車線と追越車線を塞いでしまう、という状況が生まれます。その場合、後続車は左からも右からも追い越すことができず、一般ドライバーらのイライラは次第に増していくことになる。中には蛇行運転を繰り返したり、クラクションを鳴らしたりして『早く車線を空けろ』と、ジェスチャーで要求するドライバーも出てくるでしょう」
果せるかな、追い越しをかけていた大型トラックが走行車線に戻った瞬間、一般ドライバーは放たれた矢のように追越車線を疾走し始める。そして、イライラに任せ、オーバースピードで走行を続けていたその時、走行車線を走行していた大型トラックが突然、追越車線に割り込んできて大クラッシュ──。こんな事態も想定されるのだ。
元トラックドライバーの運送業界関係者も、次のように指摘する。
「トラックドライバーは、決められた刻限までに荷を運ばなければなりません。そのため、自分より少しでも速度の遅いトラックがいれば、追い越して時間を短縮しようとするのです。年末年始の帰省や旅行などで高速道路を利用する一般ドライバーの方々には、トラックドライバーが置かれている厳しい状況を、ぜひ理解していただきたい」
結局は「心のゆとり」と「思いやり」が悲惨な事故を防ぐことになる、ということだ。