この時に代打を出された原口という選手も、ぜひ紹介しておきたい選手です。帝京高校から09年のドラフト6巡目で入団しましたが、12年のシーズン中に腰を痛めて、昨季から背番号124の育成選手となりました。育成選手というのは支配下登録の70人枠には入っておらず、いわば練習生のような扱いです。まずは、支配下登録され、背番号を2桁以下に変更しないことには、一軍の試合には出場できないのです。崖っぷちに立たされた存在ですが、野球に熱心に取り組む姿勢は隼太と双璧です。
彼は、打撃の悩みをよくぶつけてきます。ある時は打撃マシンを打ちながら、「なぜマシンが相手なのに同じタイミングで打てないのですか」と聞いてきました。フォームを固めるために、同じタイミングでスイングを繰り返したいのに、それが微妙に狂ってしまうというのです。そこで「マシンといっても多少、ボールは1球ごとに変化する。目で見たボールに対して体は勝手に反応してしまう。同じタイミングで打つ練習は素振りしかない」と伝えました。頭の中で描いた仮想のボールに対して、主導権を握って同じタイミングで振れるのは素振りしかないのです。
それ以来、彼は黙々と素振りで汗を流しています。ファームといえども4番を任されるほど成長し、大きな自信をつかんだのではないでしょうか。彼の打力がいずれチームの武器となるように、今後も手助けしていきたい思っています。
最後に、1つ提言したいことがあります。「阪神は若手が育たない」というファンの声を聞きます。しかし、弁解ではなく、育成に苦しんでいるのは他球団も同じです。日本ハムの大谷は特別として、ここ数年、高卒から鳴り物入りでプロ入りした野手が、どれだけ苦しんでいるか見てください。巨人の大田、DeNAの筒香、中日の高橋周。日本ハムの中田にしても、プロ7年目を迎えても、まだまだ本物の4番とは言えない。これは、飛びすぎる金属バットの影響です。
今の金属バットは反発係数が高すぎて、パワーさえあればホームランを打てます。高校球児たちは技術を追求するよりウエートトレなどの肉体改造に目が行きがちです。力任せの打撃ではプロ入り後の木のバットでは通用せず“金属病”が成長を阻害しているのです。今の技術ならメーカーも木の感覚に近い「飛ばない金属バット」を作れるはずで、規定を設けるべきではないでしょうか。投手ももっとストレートで勝負するようになるはずです。プロアマの壁が取り払われつつある今だからこそ、野球界全体で考えたい問題です。
阪神Vのための「後継者」育成哲学を書いた掛布DCの著書「『新・ミスタータイガース』の作り方」(徳間書店・1300円+税)が絶賛発売中。