創造的な冒険や探検を行った人物に贈られる「植村直己冒険賞」の授賞式が2月6日に都内で開催され、大阪出身の28歳の登山家が、栄誉ある同賞に輝いた。
植村氏といえば、1970年に世界最高峰エベレストに、日本人として初めて登頂。78年には、犬ぞり単独行で世界初の北極点到達を成功させた、誰もが知る冒険家だ。
だが、芸能界の中にも北極点到達に魅了され、62日間の苦闘の末に770キロを走破し、日本初、自力での北極点到達という快挙を成し遂げた女性がいた。それが女優・和泉雅子である。
東京・銀座生まれ。14歳から女優として活躍し、日活時代には吉永小百合、松原千恵子と並ぶ「3人娘」と呼ばれた青春スターだ。その和泉がテレビのレポーターとしての、1カ月の南極取材ですっかりハマッてしまったのが、冒険の魅力だった。なんと女優生活27年で蓄えた7000万円を自己資金に6000万円を借金し、計1億3000万円をつぎ込んで85年、北極点を目指す旅に出発。しかし、北極点まで160キロの地点で、無念にも氷の裂け目に阻まれ、到達断念を余儀なくされてしまう。
帰国後の記者会見では「借金を返したら、また挑戦したい」と語っていたが、事実、4年後の89年1月、再挑戦のため日本を出発。そして5月10日、ついに北極点到達という快挙を成し遂げることになったのである。
5月30日、4カ月ぶりに帰国した和泉は成田空港で会見を開き、
「(北極点に到着した瞬間は)何も思わなかった。もう、足がよれよれでね、くたびれちゃっていたから。『これでやっと帰って餃子で一杯か!』くらいで。逆に帰ってきて1週間ぐらい経ってから『ああ、本当に北極点に到達したのか』って。いやぁ~、でも面白かったわよ~。遠征ってこんなにも楽しいものなのか、って」
マイナス42度の寒さに耐え、強烈な紫外線を浴びたことで、顔はボロボロ。体重は出発前より7キロも減ってしまったというが、
「ダイエットもお化粧もしません。自然が一番。顔のシミなんて、そのうち取れるから。えっ、結婚? さぁ、きちんとやっていく自信がないから、しないと思います」
そう言って、笑いをとったのだった。
1回目の借金は、講演や女優業に邁進する傍ら、クズ野菜を分けてもらって食べるという「超節約」生活を送って返済したと聞いていただけに、2回目も1億円超の借金返済が気がかりだ。
そこでタレントの講演などを企画するプランナーに話を聞くと、
「何言ってるんですか。彼女の講演料は、最低でも1回50万円。今回の北極点到達で、さらに付加価値が付いたはずです。噂ではすでに500本近い講演依頼が入っていると聞きますから、単純計算で2億5000万円。全額返済してもおつりがきますよ」
続けて8月には著書も出版予定だと聞き、改めて41歳独身女性の逞しさを痛感したのだった。
(山川敦司)
1962年生まれ。テレビ制作会社を経て「女性自身」記者に。その後「週刊女性」「女性セブン」記者を経てフリーランスに。芸能、事件、皇室等、これまで8000以上の記者会見を取材した。「東方神起の涙」「ユノの流儀」(共にイースト・プレス)「幸せのきずな」(リーブル出版)ほか、著書多数。