突如、猛威を振るい出した梅毒の感染拡大が止まらない。国立感染症研究所によると、昨年の国内患者数は約1万3000人。10年前に比べておよそ15倍にも膨れ上がり、過去最高となっているのだ。
主に性行為によって感染するが、治療を怠って放っておけば、心臓や血管、脳などにまで病状が及ぶ。場合によっては命を落とす危険も。なぜ医療技術の発達した現代において、これほどまでに患者が増え続けているのだろうか。
医学・医療の問題を長年取材してきた、日本医学ジャーナリスト協会の理事・木村良一氏が言う。
「マッチングアプリやSNSなどで簡単に見ず知らずの相手と出会い、性交渉できるということが大きい。とにかく、避妊用ゴムを着けることが大切。避妊だけでなく性感染症から身を守ることができるからです」
当然ながら、男女の出会いや性事情の変化が背景にあるとも指摘。さらには梅毒に対する私たちの意識も影響していると続けた。
「梅毒は特効薬であるペニシリンなどの抗菌薬の普及によって感染が終息したため、専門医や経験を積んだ医師でなければ患者を直接診察したことがない。また、症状が一度は収まったように見える特性があるため、患者も安心してその後は放置して、その間に病状が進行してしまうケースも見受けられる。医師、患者双方が無知であることも影響しています」
長らく社会全体が「梅毒は過去の病」という見方をしてきた傾向があり、患者こそ途切れはしなかったものの、危機感が希薄化していたということか。
しかし再び流行の兆しを見せる現在、木村氏はこう警鐘を鳴らす。
「新型コロナウイルスもそうですが、重要なのは『正しく恐れる』ということです。国立感染研究所などのホームページをチェックするなどして、正しい知識を身につけ自分の体を守ることです」
下半身の病だけに診察をためらう向きもあるが、恥ずかしさを恐れずに早期治療をお勧めしたい。