「習近平自身は、スパイ気球がアメリカに向かっていることを知らなかったのでは!?」
中国のスパイ気球による領空侵犯、主権侵害が世界的な批判を浴びる中、アメリカの情報当局を中心に、こんな驚くべき憶測が広がり始めている。
というのも、スパイ気球がアメリカに向かって飛行していたまさにその時期、米中の関係改善に向けたブリンケン国務長官の訪中日程が詰めの段階を迎えていたからだ。結局、2月上旬に予定されていたブリンケン長官の訪中は延期となったが、習近平国家主席自身も、訪中延期という事態は望んでいなかったとされている。
ではなぜ、外交上、極めて慎重な対応を要するこの時期に、中国のスパイ気球がアメリカに飛来する事態となったのか。習近平政権の内情に詳しい国際政治学者は、
「確かに、習近平がスパイ気球を巡る一連の事態を把握していなかったフシはある」
こう指摘した上で、この間、習近平政権下で起きていた可能性のある「2つの大暴走」について、次のように明かしたのである。
「習近平政権内には『余計なことをすれば粛清される』という恐怖感が蔓延しています。この点は習近平指導部以下、外交部と人民解放軍においてもしかり。習近平自身は『ブリンケン長官の訪中を目前に控えた今、スパイ気球の打ち上げは中断した方がいい』と考えていたが、習近平の命令は指導部から外交部、外交部から人民解放軍へと伝わらず、人民解放軍はこれまで通り、スパイ気球を打ち上げ続けた。これが第一の大暴走説です」
まさに「雉も鳴かずば撃たれまい」を地で行く話だ。国際政治学者が続ける。
「さらに、習近平政権下では『余計なことはしないが、与えられた仕事は人一倍頑張る』という出世競争が激化している。要は、習近平に対する忠誠争いです。今回の一件で言えば、これまで世界40カ国以上の上空にスパイ気球を飛来させてきた人民解放軍は、習近平のホンネを知らされぬまま、自分たちの出世と予算の分捕りを目指して、むしろ意欲的にアメリカに向けてスパイ気球を打ち上げ続けた。これが第二の大暴走説です」
その結果、習近平も「寝耳に水」の大トラブルが勃発したというのだ。
いずれにせよ、問題の根は独裁者による強権支配にある。今回のスパイ気球事件で明らかになったのは、習近平が危うい「裸の王様」になりつつあるという現実だ。