仮に、台湾政府が「台湾独立」を宣言すれば、中国は軍事侵攻を開始する。
多くの戦地を取材してきたジャーナリスト、村上和巳氏が言う。
「05年に中国政府は『反国家分裂法』を成立させています。台湾独立阻止のための軍事行動を合法化する法律です。そのため、中国人民解放軍は軍事行動を即座に開始するでしょう。そして、まず仕掛けてくるのは、台湾に向けてのミサイル攻撃です」
これには“前例”がある。96年に行われた台湾総統選挙で独立志向の李登輝氏(91)の優勢の観測が流れると、中国は軍事演習を開始。台湾への恫喝として、台湾の基隆沖に弾頭のないミサイルを撃ち込んだ。これに対し、米軍が動いた。空母とイージス艦からなる空母攻撃群が台湾海峡へ急派されたのだ。
この時は中国が演習を中止したため緊張は解けた。
しかし、これは現実に中国が台湾に向けてミサイルを発射したとなれば、台湾国防軍だけでなく米軍も解放軍と交戦する可能性を示唆している。そして、米国は日本の同盟国である。さらに、中国が台湾海峡を封鎖すれば、閣議で決まった新3要件を満たし、日本が集団的自衛権を行使することもありうるのだ。
すると、まず自衛隊が任される任務は、先に触れた8事例中の米艦の防護となるだろう。
「台湾海峡を巡り、米軍と解放軍が交戦するとなれば、米軍は沖縄に駐留する兵力、さらには第7艦隊などの太平洋艦隊を送り込んでくるでしょう。台湾に向けられたミサイルを叩くことになると思います。その攻撃時に米軍はかなりレーダーの索敵範囲を狭める必要があり、艦隊の防護が足りなくなる。そこに自衛隊が投入されるのです」(村上氏)
その任務に当たるのが海上自衛隊のイージス艦やP-3C哨戒機だろう。そこまでくれば、解放軍とて黙っているわけもない。米艦隊へ向けてミサイルを撃ち込むことが予想される。
ところが、これがやっかいな代物だという。
軍事ジャーナリストの世良光弘氏はこう話す。
「日米が保有する対艦ミサイルでハープーンミサイルがありますが、解放軍が保有している対艦ミサイルにはハープーンよりも射程距離が長いミサイルがあります。このミサイルは音速の速さで飛んできて、発射から着弾まで30秒足らずでしょう。もちろん、海自にはその間に迎撃する能力はあります。とはいえ、発射前に攻撃してしまうのが理想的です。解放軍は長い射程距離を生かして、ロングレンジから撃ってくるわけで、海自はそれだけ広範囲に警戒せねばならなくなるのです」