中国の習近平国家主席が韓国を訪れ、朴槿恵大統領と「反日共闘」を確認し合ったという。一方、日本と北朝鮮は拉致問題の解決に向けて劇的な関係改善の流れになっている。日本海を中心とした日朝vs中韓の新たな冷戦構造とは──。
「従軍慰安婦問題に関する資料の共同研究や相互寄贈で協力する」
韓国を訪れた、中国の習近平国家主席(61)と朴槿恵大統領(62)が、共同声明の付属文書で「反日共闘」を明言したのは、今月3日のことだった。
過去20年間、中国の国家主席は北朝鮮を先に訪れることが慣例である。気をよくした韓国市民が、
「魚釣島(尖閣諸島)は中国の領土」
と書かれた横断幕を掲げ、韓国の中国大使館前に集うほどだった。
そもそも韓国は日米の同盟国である。まるで中国と同盟を結んだかのような今回の動きを、「仲良く自滅する中国と韓国」(小社刊)の著者・室谷克実氏が解説する。
「韓国は米韓軍事同盟に片足をつけたまま、『“国家の心情”としては中韓です』と露骨にこびを売り続けます。経済面での中国の支配力が朝鮮半島南部で高まっていき、両者は『反日共闘』を進めていくでしょう」
こうした状況で日本に接近してきたのが、北朝鮮だ。北の国営通信「朝鮮中央通信」は、習・朴共同声明の翌日、次のように報じている。
〈特別調査委員会を組織して(拉致被害者を含む)全ての日本人に関する調査を開始する。委員会は“全ての機関”を調査することができ、必要に応じて該当機関や関係者を調査事業に動員することができる特別な権限を与えられる〉
北朝鮮に、これまで何度となく裏切られ続けてきた拉致問題。しかし、今回の表明を安倍晋三総理(59)は評価した。
「国防委員会、国家安全保衛部という組織が前面に出て、国家的な決断、意思決定ができる体制ができた」
北の「特別調査委員会」は約30人のメンバーで構成される金正恩第一書記(31)の直轄組織。安倍総理の言う「国家安全保衛部」とは拉致被害者の安否情報を握る秘密警察である。
日朝中韓の立場が混濁する直前の6月29日、産経新聞はウェブ版で、こんな見出しの記事を編集委員の署名で掲載したのだった。
〈前代未聞の中韓vs日朝──朴槿恵氏は中国に、金正恩氏は日本に秋波〉
記事は拉致問題解決への前進どころか、日朝がまさかのタッグを組むという内容だ。しかし、おのおのの国の状況を整理すると、にわかに現実味を帯びてくるのだ。今月末に「ヤバイ中国」(小社刊)を上梓する渡邉哲也氏が北の現状を解説する。
「北朝鮮は中国に侵略されるのを恐れています。中国と領土問題を抱えながらも属国にならないよう関係を維持してきました。しかし、今年6月、ロシアの貨幣ルーブルを使えるようにしてロシアに接近しています。まずはロシアと蜜月状態を作って、韓国になびいた中国との決別状態に移行しようとしているのです」
昨年12月には、中国とのパイプ役であった張成沢氏が処刑された。脱中国への準備はすでに始まっていたのである。