春の選抜甲子園大会が熱気に包まれる中、WBCでの大谷翔平のMVP獲得で、思い出したことがある。
それは2012年8月の甲子園大会、閉会式での大会総評。挨拶に立った日本高野連・奥島孝康会長(当時)が言い放った言葉だった。
「地方大会では有力校が次々と敗退するなど、夏を勝ち進む難しさを痛感させられました。その中で全国大会に駒を進めた49代表は、記録と記憶に残る戦いを演じてくれました。とりわけ残念なのは、花巻東(岩手)の大谷投手を、この甲子園で見られなかったこと」
なんと、異例の個人的見解を述べたのである。その直後から大会本部には「盛岡大付が岩手代表で出場しているのに、失礼ではないか」
という抗議電話が寄せられた。大会本部の関係者は「ああいう場で申し訳ない」と、会長の発言について陳謝した。
「高野連会長という立場でのあの発言は軽すぎる、という批判は多かった。早稲田大学の総長時代にも批判が多い人でしたが、自身が野球経験のない素人であり、天下りのように高野連会長に据えたのも問題でしたね」(スポーツ紙記者)
この高野連会長をめぐっては、世間を騒がせる問題が起きていた。それは2001年から2003年に行われた早稲田実業学校初等部の入学試験の2次試験(面接)で、面接官だった奥島氏が、同伴の保護者全員に300~350万円の寄付金を要求したことだ。募集要項記載の6~7倍の金額だったことから、東京都はこれを問題視し、学校側に改善通達を出した。
しかし奥島氏はこの改善通達を無視したため、東京都は同学校法人に対し、2003年度経常費補助金の20%(約1億242万円)の返還を請求した。
奥島氏は文部科学省の中央教育審議会委員などを辞職。この高額寄付金要求事件により、早稲田実業は都や文科省から睨まれるようになったばかりか、保護者からも拝金主義に対する厳しい目が向けられるようになったと指摘されている。
「奥島氏の頭の中には、大谷が夏の岩手代表決勝戦で『幻のホームラン』で敗れ、あと一歩で甲子園出場を阻まれたことが頭をよぎったのかもしれません」(前出・スポーツ紙記者)
2012年7月26日、岩手大会決勝戦。先発した大谷は、0対1で迎えた3回、盛岡大付の4番打者・二橋大地に、左翼ポール際への3ランを浴びた。ポールを巻いたか巻いていないのか、フェアかファウルか、微妙な打球だ。「幻のホームラン」と語り継がれるこの一発がモノをいい、花巻東は3対5で敗戦。試合後、打った二橋に「ナイスバッティング」と声をかけ、大谷の高校野球は終わった。二橋は、
「ホームランかそうでないかは審判がジャッジすることなので、分かりません。が、あの一発で、大谷からホームランを打った男として有名になったのは事実です。社会人野球に進んだんですが、『お前はあの大谷からホームランを打っているんだから、(対戦相手の)あんなピッチャー、簡単に打てるだろう』ってプレッシャーをかけられて。『大谷の呪縛』は相当なものでした。大学時代に球場警備のアルバイトで大谷に手を振ったら、笑顔を返してくれました。本当に覚えていたのかは分かりませんけれど(笑)」
甲子園に大谷はいなかったが、世界の舞台で世界中の野球ファンが、大谷のWBC二刀流MVPプレーを目撃したのである。