第5回WBCは、侍ジャパンが3大会ぶりとなる悲願の優勝を果たした。なかばMVP大谷翔平(28)のワンマンショーでもたらされたと言ってもいい野球フィーバーには、表裏一体の“光と影”があったのである。
3月9日から始まった1次ラウンドの時点で、テレビ朝日が16日の準々決勝・イタリア戦で48.0%(ビデオリサーチ調べ、関東地区、以下同)、TBSでは10日の韓国戦で44.4%と軒並み世帯視聴率において40%超えを連発した。
「今年1月に大谷のWBC参戦が正式に決まった後も、局内では『オワコンの野球中継で高視聴率を見込むのはそもそも無理がある』との見方が強かった。それが蓋を開けてみれば、この結果ですよ。地上波中継したテレ朝、TBSともに鼻が高いでしょうね」(民放局編成担当)
しかしながら、そこには手放しで喜べない事情もあるという。
「背景として、大会ごとに放映権料が高騰しているんです。今回、両局ともに約20億円も買い付けにかかったとされていますが、いくらCM枠が完売しても完全に赤字となります。テレビ不況で金銭にシビアなTBSでは、局上層部に対して説明が必要です。だから大会前に行われた試合のうち、テレ朝同様に宮崎で行われたソフトバンクとの壮行試合こそ全国中継しましたが、名古屋の対中日戦、大阪の対オリックス戦は費用対効果が悪いと判断されて放映権購入を見送った。結果、野球のネット中継初参入となるアマゾンプライムビデオの独占生配信となりました」(前出・民放局編成担当)
いくら高視聴率を叩き出しても、テレビ局の利益にはなかなか結び付かなかったというのだ。そこにはコロナ禍で景気が一気に悪化し、テレビ局のCM収入事情が激変している背景が指摘される。
「一部の国が熱を上げているだけのWBCでは、世界規模で盛り上がる五輪やサッカーW杯のようにCM単価を爆上げできません。その上、大会スポンサーに入っている競合他社のCMは流せないなど制約もある。旬のスポーツイベントを放送する局のブランドイメージ向上には一役買いますが、テレビ局サイドだっていつまでも余力がある状況ではないのです」(広告代理店関係者)
次回のWBCは3年後の26年開催予定だが、先の広告代理店関係者によれば、今、テレビ局には暗雲が漂っているという。
「2局とも今回の金額を支払うのはもう無理でしょう。これまでNHKを含む地上波6局で全試合を放送してきたサッカーW杯でも、昨秋の大会から日本テレビ、TBS、テレビ東京の民放テレビ3局が中継を見送ったように、WBCからも地上波テレビ局の撤退が決定的です。回避するには買い付け側が安値で放映権料を売るか、今回のようにネット中継と並行して地上波中継を間引きで展開するかの二択しかありません」
数字を稼いでも素直に喜べないテレビ局とは対照的に、先の広告代理店関係者はニンマリ。「WBCは金脈そのもの」とほくそ笑むのである。
WBC中継や東京ラウンドの広告看板には、大谷翔平を起用した企業がズラリと並んだ。これらすべては17年オフの米メジャーリーグ移籍のタイミングから、大手広告代理店がブランディングして取ってきたスポンサーばかりだ。
「大谷は渡米してたった5年足らずで、すでに100億円近いスポンサー収入を得ています。代理店は少なくとも15%を手数料として受け取っているでしょう。言ってしまえばイメージがよければ日本人メジャーリーガーは金になることが証明されたのです」(CM制作会社幹部)