中国でアステラス製薬の現地法人に勤務する50代の日本人幹部男性が拘束された事件は、北京の日本人社会に衝撃を与えている。
この男性は中国での勤務歴が約20年にも及び、中国に進出する日系企業の団体「中国日本商会」の理事も担った。経産省の「国際ルール形成戦略研修」における「ルール形成戦略の取り組み事例」として、「中国日本商会によるロビイング事業」で講師役となったこともある。いわば中国を知り尽くしているベテラン駐在員であっても「標的」となるのだ。しかも、男性は日本に帰国するため空港に向かう途中で拘束された。
中国外務省の毛寧報道官はこの男性について「スパイ活動に従事し、中国の反スパイ法などに違反した疑いがある」と説明したが、さる北京現地法人幹部は、
「製薬業界が中国にスパイされ、技術を盗まれることはあっても、こちらがスパイすることなんてありえない」
と憤る。男性は今後、どうなるか。2016年に同じくスパイ活動をしたとして中国当局に拘束された、日中青年交流協会元理事長・鈴木英司氏のケースが参考になる。
鈴木氏はおよそ半年間にわたり、ホテルの一室で「居住監視」と称し、24時間の監視下に置かれた。カーテンが閉められた部屋で窓に近寄ることも許されず、日光を浴びることができたのはわずか1日。それも15分だけだった。
鈴木氏は身に覚えのないスパイ容疑に対し、否認を続けたものの、中国では訴えが認められることはない。スパイ罪による有罪が確定し、3年9カ月を拘置所、1年11カ月を刑務所で過ごすハメになったのだ。
今回の幹部男性も同じように、6年近い拘束生活を送ることになるのか。鈴木氏の例を見ても、日本政府が強硬に中国側に救出を要求するかといえば、かなり疑わしい。鈴木氏と同じく「日中友好人士」であっても、スパイと決めつけられる。中国に進出する日本企業は、肝に銘じるべきだろう。