東京女子医科大学(東京都新宿区)が東京国税局から、2億5000万円の申告漏れを指摘されていたと3月30日、報道各社が一斉に報じた。女子医大は複数の製薬会社から受け取っていたカネを、課税対象にならない「受託研究費」として処理していたという。
受託研究とは、製薬会社などの民間企業から委託を受けた大学病院が臨床試験を行い、その結果等を報告する制度だ。新薬の治験などが、これにあたる。臨床試験の結果「安全性」と「効果」が実証されれば、製薬企業は国に新薬の承認申請をする。これら臨床研究にかかる経費全般を民間企業が負担するのが、受託研究費である。
東京国税局は、製薬企業から女子医大に渡ったカネは、この「受託研究費」の条件を満たさないと判断。女子医大に5年間2億5000万円の申告漏れを指摘し、5500万円を追徴課税した。
この東京国税局の「判断」には2つの意味がある。
まず、東京国税局は複数の受託研究について、研究結果を公表するなどの実態が伴っていないと判断したこと。さらに中立的な立場で新薬の評価をしなければならない大学病院が、製薬企業から「報酬」を得ていたと判断したことだ。
女子医大附属病院では2021年3月末に、約100人の勤務医が大量辞職した。800人以上いた常勤医師が700人に減り、同病院の看板診療科であった脳神経外科では主治医の退職後、1年を経過しても後任の主治医が決まらない患者もいた。他の診療科でも、外来予約をしようにも医師がいないからと1年以上も治療が中断し、近隣の病院に駆け込んだ患者が相次いだ。
外来診療もままならないのだから、製薬企業から委託された研究を続けるどころではない。2019年の理事長交代後、女子医大はそれまでの監査法人の契約を打ち切り、医師看護師の賞与をカットするなど、カネの流れが不透明になったといわれる。そんな折に国税局が取っ掛かりとしたのが「受託研究費」だった。厚労省幹部が言う。
「東京国税局から追徴課税を受けると、厚労省の行政処分も検討されます。医療法人、大学病院などの学校法人は公益性が高い業種のため、税制優遇を受ける代わりに脱税や修正申告、追徴課税には『3年以内の医業の停止』や『医師免許剥奪』など、他業種に比べて重い行政処分が下るのが慣例です。女子医大は2021年の医師、看護師の大量辞職で『医療の質の担保ができないのでは』と、省内から懸念の声が上がっていました。さらに今年1月の関東信越厚生局の立ち入り調査でも、病院内の記録の不備が指摘されました」
女子医大は過去に心臓手術ミスとカルテ改ざん、子供への使用禁止薬物を投与したことによる連続死亡事故と、いずれも病気に苦しむ子供達が犠牲になった事件を起こし、2度も特定機能病院の指定を取り消されている。過去の報いが厚労省の行政処分にどう影響するだろうか…。
(那須優子/医療ジャーナリスト)