Jリーグが開幕してまだ序盤にもかかわらず、サッカーファンが首をかしげる驚きの「移籍劇」が起きたのは、3月下旬のことである。
前年度王者の横浜F・マリノスが、J2ジュビロ磐田から元日本代表のFW杉本健勇を期限付き移籍で獲得したと、電撃発表したのだ。
これで戦力アップのはずだが、なぜか横浜サポーターのモヤモヤが晴れないというのだ。サッカーライターが解説する。
「横浜のアタッカーはアジアトップレベルの陣容が揃っているし、川崎フロンターレのように、ケガ人が続出しているわけでもありません。そもそも、杉本の加入で得点力が上がるとは思えず、移籍を報じたスポーツ紙の『万能ストライカー』という表現に、ツッコミの声が噴出しました」
渦中の杉本は、若手の頃から「規格外」と言われ、1メートル87センチの長身での空中戦の強さがウリ。
その才能が大きく花開いたのは、17年シーズンのセレッソ大阪でのことだった。
「J1得点王争いを繰り広げ、キャリアハイの22得点を記録し、日本代表に初選出されています。19年に浦和レッズに移籍した時は、年俸1億円の大台に乗ったと言われ、ド派手な高級車に乗る姿がたびたび話題になりました」(前出・サッカーライター)
公私ともになにかと騒がれる一方、ゴールは遠のくばかりで、浦和時代は70試合で6ゴール。21年7月から途中加入した横浜F・マリノスでは、11試合で3得点だ。昨シーズンはジュビロ磐田で、30試合でPKによる1得点のみという体たらく。J2降格の戦犯扱いを受けてしまった。
ジュビロサポーターにすれば、本来は移籍もやむなしと言いたいところだが、それでも今シーズンばかりは大きな期待を寄せていた。前出のサッカーライターによれば、
「以前、獲得した外国人選手の移籍でルール違反があったとして、FIFA(国際サッカー連盟)に22年シーズンオフと今夏の補強禁止の厳しい処分を受けたんです。つまり、現有戦力で一致団結してJ1昇格の切符を勝ち取らなければいけないのに、なぜ移籍することになったのか。シーズン序盤のタイミングだっただけに、サポーターは怒り心頭。今年こそはやってくれると応援していたサポーターは杉本のユニフォームを購入していましたが、移籍を理由とした返品・返金・交換に応じなかったことで、苦情が殺到。チームが謝罪するハメになったのです」
禍根と謎を残した「移籍劇」ではあるが、あとは古巣で結果を残すのみ。本人は前向きに捉え、横浜で活躍して、代表への返り咲きとW杯出場を狙っているようだが、
「新生・森保ジャパンの初陣となる3月24日のウルグアイ戦でゴールを決めた西村拓真も、海外のクラブから日本に戻ってきてからくすぶっていましたが、横浜で輝きを取り戻しました。アシストしてくれる選手は多いので、杉本の大復活が起きても不思議ではないでしょう」(前出・スポーツライター)
名門でゴールの嗅覚を取り戻し、汚名返上なるか。