掛布 寂しいのは、やっぱり鳥谷が生え抜きとして、チームを引っ張りきれていないことだね。今年は鳥谷のチームで勝たないといけない。それが新聞報道のあり方を見ていても、ゴメス、マートンのチームになってしまっている。
桧山 鳥谷は昔から遠慮がちな部分がありますから。上の世代の僕らの色が強かったから、そうなったのかもしれないですね。
掛布 金本という強烈な存在がいたからね。チームにとってはプラスになったが、鳥谷の野球を考えるとはたしてどうだったか。オレの場合は田淵さんがトレードで出て行き、4番を打たざるをえなかった。田淵さんがもし残っていたら、違った役割に回らないといけなかった。
桧山 鳥谷もチームが勝つために、求められた役割をこなしているんですよ。
掛布 周りを見渡した時に必要とされたのが、今のようなつなぎの打撃だったんだよな。それ自体は間違いではない。でも、球団が金本を獲らずにあと1、2年我慢すれば、鳥谷が4番打者として一人前になっていた可能性はある。
桧山 4番打者は技術だけでなく、性格面の資質も大事になってきますよね。
掛布 でも、今は本当の4番打者がいらない時代だとも言える。4番がバントしたり、次の日に下位打線を打ったりしているしな。ONや山本浩二さん、オレも含めて、バントのサインを出されると反発するような野球が許されなくなった。ワガママな野球が非難される時代だからな。
桧山 ファン目線もそうですね。4番が育ちづらい環境かもしれません。その意味では、純粋に力対力の対決を見せられるオールスターゲームの果たす役割は大きいと思います。
掛布 今年のオールスターは大谷が162キロを出したり、久しぶりに見応えがあったよ。選手はシーズン中とは違って、打たれる美学、打ち取られる美学を持たないといけない。
桧山 自分がプロで生きていくための持ち味を、ああいう場で見せてほしいですよね。
掛布 オレが桧山に1つ聞きたいのは、4番を打った人間がベンチを温め、代打で生きるようになった。すごく葛藤があったと思う。どうやって自分を納得させたかということなんだよ。
桧山 頭の切り替えは最後までできませんでした。ずっとライトを守りたかった。最後までレギュラーにこだわってきたから守備練習も走塁練習もしたし、準備だけはしていた。それでないと、あそこまで野球を長くできなかったでしょうね。代打だけでいいと思うと、何かがおろそかになっていたと思います。
掛布 すごく悔しかったと思うよ。でも4番を打ち続けなかったことが、桧山にとってはある意味プラスになったと思う。さっきの話の繰り返しになるけど、気を遣って満足させることは選手のためにならない。外された不満があって、ナニクソという気持ちがあってこそ野球選手だと思う。
桧山 一生懸命、野球に打ち込んだら野球の神様が見てると思いながらやってきました。野球人生最後の打席だったクライマックスシリーズでのホームランを振り返ってもそう思います。謙虚にセンター返しを心がけたら、たまたま22年間でいちばんいい打ち方ができました。野球の神様から最後に褒美をもらえたと思っています。
掛布 オレ、実は引退を決めた選手にはクライマックスシリーズのメンバーに入ってほしくなかったんだよ。でも、去年の後半のチームの悪い流れを振り返ると、阪神は甲子園のCSで広島に負けるようになっていたと思う。桧山のホームランがなければ暴動が起きていたかもしれない。あの一発でファンの気も少しは晴れたんじゃないかな。今年こそは勝ってスカッと終わりたいね。
桧山 上本や梅野ら若い力も出てきていますし、いいシーズンにしてもらいたいと思います。
阪神Vのための「後継者」育成哲学を書いた掛布DCの著書「『新・ミスタータイガース』の作り方」(徳間書店・1300円+税)が絶賛発売中。