その「事件」は4月11日(日本時間12日)のナショナルズ戦で起きた。
この日、大谷翔平はエンゼルスのホームゲームに先発投手・3番DHの二刀流を引っ提げて登場。今季初となる根拠地でのマウンドに立った投手大谷は、防御率を驚異の0.47へと更新する、7回1安打無失点の快投を演じ、早くも2勝目を挙げた。
そんな中、5回表のピッチングを終えて味方ベンチに戻ろうとした大谷を、険しい表情のマルケス球審が3塁ベース付近に歩み寄って制止。エンゼルスファンが「ナニゴトか」と注視する中、マルケス球審が大谷の身体検査を始めたのだ。
のちに明らかになった理由は、大谷が「ベタベタ(粘着物質)」を秘かに使用してボールを大きく変化させているのではないか、という「不正投球疑惑」だった。
今季からメジャーリーグに導入された新ルール・ピッチクロックへの対策として、大谷はこの日もサイン伝達のための電子機器「ピッチコム」を左上腕部の内側に装着し、ユニフォームの上から右手指で操作し、自ら捕手にサインを送っていた。その事実を知らなかったマルケス球審が、ピッチコムをベタベタと勘違いしたのである。
結局、大谷の紳士的な説明によって疑惑は即座に晴れ、マルケス球審も「アイム・ソーリー」と笑顔で謝罪。ホームスタジアムでの珍事は一件落着となったのだが、そもそもマルケス球審はなぜ、こんな疑惑を抱くに至ったのか。
長年にわたってメジャーの試合を観察してきたスポーツジャーナリストが明かす。
「大谷は今、下にも横にも大きく変化する異次元のスライダーを完成させつつあります。これは『魔球スイーパー』と呼ばれていますが、マルケス球審は魔球で打者を翻弄し続ける大谷の投球を目の当たりにして『ベタベタでも使わなければ、あり得ない変化』と感じたのでしょう。逆に言えば、大谷の魔球がそれほど常人離れしたものだったということになる。大谷伝説にまた、新たな1ページが加わりました」
ちなみにマルケス球審はこの日、大谷がストライクゾーンに投じたはずの魔球を幾度となく「ボール!」と判定している。その理由は不明だが、これもまた、大谷の魔球に翻弄されたがゆえの「幻惑」だったのかもしれない。