4月15日、岸田文雄首相は衆議院和歌山1区の補選で、自民党・門博文候補の応援のために、現地入りした。最初の演説会場となったのが、和歌山市の南側に位置する雑賀崎漁港だった。近くの和歌浦は、かつては有名な観光地で、多くのホテルに団体客が詰めかけた時代もあった。今は往年の様子は見られず、廃業したホテルが無残な姿を晒していることも。
事件が起きたのは11時20分過ぎのことだった。聴衆の中にいた若い男が演壇に上がった岸田首相に向けて、パイプのような物を投げつけた。それを見た地元の体格のいい漁師が、目の前にいた男を押さえつけようとして揉み合いになる。私服警官などが加勢して、男は地面に組み伏せられたのである。
と、ここで男が投げつけたパイプが爆発し、白い煙が上がった。聴衆は悲鳴を上げながらパニックになり、首相は演説を中止して現場から走り去った。幸いなことに、会場での大きなケガ人はおらず、首相は予定していた通り、JR和歌山駅前での演説を行っている。
爆発物を投げ入れた若い男は、兵庫県川西市の木村隆二容疑者。威力業務妨害で現行犯逮捕されたが、弁護士が来るまで喋らない、と供述している。川西市から雑賀崎までは車で軽く2時間半はかかるため、計画的犯行とみられている。
昨年夏の、安倍晋三元首相が銃撃された事件を彷彿させる凶行だ。
それにしても岸田首相の応援演説会場に、なぜ交通の便がよくない雑賀崎漁港が選ばれたのだろうか。首相の和歌山市での応援演説会場はここと、JR和歌山駅前の2カ所だけだった。
「和歌山市に住んでいても、雑賀崎のことを知らない者もおるんです。住民は少ないし、道路も狭い。なんで岸田さんはあんな所で応援演説をするのか、不思議でした」(60代の和歌山市民男性)
イタリアの漁村アマルディーに似ていることから、雑賀崎は日本のアマルディーと呼ばれ、インスタ映えする場所ということで、若者たちが姿を見せている。
近くには釣り公園があり、家族連れで週末は賑わう。が、道路が複雑なので、ヨソ者がふらりと行けるような場所ではない。地元の元市議が説明する。
「ここには東組という建設会社があり、和歌山市建設業協会の会長を務めているんです。漁港整備の仕事もしていますから自民党とのパイプは強く、それで雑賀崎での応援演説になったと聞いています。建設会社としても、自分らの影響力が岸田さんに通じている、と誇示できるわけですからね」
どうやらそんな生臭い理由で、この場所が選ばれたということなのだ。