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新日本プロレスVS全日本プロレス<仁義なき50年闘争史>「新日本興行が最強軍団ジャパン・プロレスに!」

 新日本プロレス興行(以下、新日本興行)の大塚直樹社長が「業務提携している全日本プロレスのリングを盛り上げるために、現在開催中のシリーズ終了後に新日本プロレスから選手を引き抜きます」と宣言し、その解禁日とした1984年9月21日のスポーツ新聞には「連休明けに電撃移籍発表か 藤波、長州も連絡待ち」(デイリースポーツ)、「新日レスラー数人、新日興行と接触 大塚社長始動、引き抜き選手きょうにも発表か」(東京スポーツ)という見出しが躍った。

 新日本興行の引き抜き劇は電光石火だった。この日の午前11時にマスコミ各社に記者会見の通告をして、午後3時からキャピトル東急ホテル(現ザ・キャピトルホテル東急)「日光の間」で記者会見。前夜、大阪の新日本の打ち上げパーティーに参加していた長州力、アニマル浜口、谷津嘉章、小林邦昭、寺西勇の維新軍団5人全員が顔を揃えて、新日本退団と新日本興行への移籍を発表したのである。

「この5人がウチの役員として参加することが本日決定しました。新日本に対しては“事前の了解”ということで、記者会見前の2時50分着で退職願を提出、テレビ朝日との契約を破棄するつもりはありません。この5人は株主として資本の増資に応じ、取締役としてウチに入ったわけで、引き抜きではなく、ウチの会社のビジョンに5人が賛同してくれたものです」という大塚の説明は完璧だった。

 長州は「今でも猪木さんに感謝していますが、考えた末に結論を出しました。5人は一蓮托生‥‥今後、揉め事があった時にはプロレス界から足を洗います」と不退転の決意を表明。

 会見場には姿を見せなかったものの「大塚さんから電話をもらったので」と、ホテルまでやってきたジャイアント馬場は「まさか今日やるとは思わなかった。彼らは全日本の所属になるんじゃないから、何とも言えんなあ。まあ、業務提携しているし、大塚社長の会社が潤えば、全日本も潤うんだから、考えなきゃいかん。彼らがいつ殴り込んできても大丈夫な体制を整えなければいかんなあ」と、傍観者を装いながら維新軍の全日本参戦を匂わせた。

 長州が大塚に「今後、どうなるんですか?」と尋ねてきたのは、大塚が引き抜き宣言する2日前の8月25日。この日、新日本は筑波学園都市で試合があり、長州は個人会社「リキ・プロダクション」がある新日本興行の事務所から大塚の車で会場に向かったが、この前日に大塚が新日本から契約解除の通告書を渡されたことを知っていたのだ。会場に着くと、小林邦昭も「大丈夫ですか?」と、大塚に声をかけてきたという。

 そして公に引き抜き宣言した後の9月1日、大塚は長州に正式に新日本興行への移籍を打診。長州の目黒のマンションで大塚、新日本興行の加藤一良専務、5選手が集まってミーティングを行い、移籍金など条件面で合意に達した。

 そして最終決定は会見前夜の20日の夜。打ち上げパーティー後の午後11時半過ぎに長州が大塚に「心は決まっています」と電話を入れたのだ。

 5人揃って行動すると怪しまれるため、選手は別々に帰京。長州は午前10時半には東京に到着した。

 この電撃記者会見に新日本の坂口征二副社長が「5匹の狸に騙された」と声を震わせたのも無理はない。

 新日本は緊急役員会を開き、終了後には坂口が「このまま黙って放置しない。やるべきことはやります。新日本興行、長州らの出て行った選手、そしてそれを使嗾(しそう)した団体(全日本)と徹底的に戦います」というコメントを発表したが、大塚は「私は『知恵の輪』を持っています。ですから、裁判までいかずに話し合いで決着がつくでしょう」と自信ありげに語り、新日本にプレッシャーをかけた。

 新日本興行の引き抜きは維新軍団だけにとどまらなかった。大塚の「これで終わりではありません。来週にも何人かの選手がウチに来るでしょう」という予告通り、4日後の9月25日には永源遙、栗栖正伸、保永昇男、新倉史祐、仲野信市が新日本興行入りした。

 翌26日にはテキサス州ダラスからキラー・カーンが極秘帰国し、翌27日に「同郷の馬場さんや、鶴田、天龍と戦ってみたい。全日本に上がればスタン・ハンセンやブルーザー・ブロディと対戦したり、NWA世界王座に挑戦できる機会もあるはず」と新日本興行入り。

 新日本興行の勢いは止まらない。10月7日から静岡県西伊豆の土肥温泉で強化合宿を行い、合宿中の9日に社名を「ジャパン・プロレスリング株式会社」に変更することを発表。合宿最終日の13日に若手の笹崎伸司が合流、合宿終了後の15日にはレフェリーのタイガー服部がジャパン入りし、とどめとして11月1日に長州の師マサ斎藤がジャパン入りを表明した。

 興行会社の新日本プロレス興行は、あっという間に長州以下13人もの選手、レフェリーも抱えるジャパン・プロレスという最強軍団になったのである。

小佐野景浩(おさの・かげひろ)元「週刊ゴング編集長」として数多くの団体・選手を取材・執筆。テレビなどコメンテーターとしても活躍。著書に「プロレス秘史」(徳間書店)がある。

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