「おすぎとピーコ」の兄、ピーコが万引きで逮捕されていた。なんともショッキングで哀しい事件である。4月10日付の「週刊女性PRIME」が、ピーコが行方不明になっていると明らかにし、同20日発売の「女性セブン」が3月25日に窃盗罪(万引き)で逮捕されていたと報じた。
すでにおすぎは認知症を患い、高齢者施設に入所している。近親者にアルツハイマー患者がいると、本人もアルツハイマーを引き起こす確率は、そうでない人と比べて3倍のリスクが生じる。一卵性双生児のおすぎとピーコであればなおさら、気が付かないうちに認知症が進んでいたのだろう。
「女性セブン」によれば、繰り返し万引き被害に遭っている店が警察に通報。ピーコは「代金はカードで払った」と言うものの、クレジットカードは使用停止になっていたという。
認知症が恐ろしいのはコレなのだ。年を取り、物忘れが激しくなると、人の脳は過去の記憶に置き換えたり、自分に都合のいいニセの記憶で補正する。ピーコはクレジットカードが使えないという現実がもはや認識できず、脳内で「クレジットカードで払った」との記憶に書き換えられていたのだろう。
スーパーの万引き犯に高齢者が多いのは、老化に伴う脳の萎縮と機能低下で、自分の所有物と他人の所有物の境界線が曖昧になる、罪の意識がなくなる、我慢ができない、カッとしやすく粗暴になる、会計を済ませた、相手が悪いなどと、都合よく記憶が上書きされるからだ。
万引きだけでなく、高齢者の乱暴運転や店先での迷惑行為も同様だ。全てが自分を中心に都合よく解釈するから、スピード違反や信号無視をしても悪びれることなく、事故を起こしてもその場から逃走してしらばっくれる。
施設に入所した高齢者は、様々な時代にタイムスリップして日々を過ごす。その日の朝ご飯を繰り返し食べようとする高齢者もいれば、若い頃のプロポーションに戻ったと記憶が補正され、入居者の前で肌着1枚になって施設職員を誘惑する女性もいた。あるいは「息子は実は不貞相手の男と作った子供」と、墓まで持っていくはずの秘密を家族の前で暴露する女性もいた。実の娘と不貞相手を間違えて、実の娘に欲情する男性も。前後不覚となり、脳がいつの時代にタイムスリップするかは、誰にも分からないのだ。
ピーコの行方が分からなかったのも逮捕勾留され、その後、老人施設に移ったためだった。
スマートフォンに個人情報も連絡先も一元化されている現在、スマホなしに誰かと連絡を取れる自信は自分にもない。認知症であれば、なおのこと。だから記憶がしっかりしているうちに「自分が死んだ時、病気になった時の連絡先」や銀行口座、保険契約をメモしておく「終活ノート」を作っておくことが大事なのだ。
(那須優子/医療ジャーナリスト)