あのミスタープロ野球、長嶋茂雄が巨人監督時代、打撃投手を買って出たことがある。その際のやりとりを明かしたのは、篠塚和典氏だ。首位打者のタイトルに輝くこと2度(84、87年)、安打製造機と称された名打者が、野球解説者・槙原寛己氏のYouTubeチャンネル〈ミスターパーフェクト槙原〉で回想したところによれば、それは篠塚氏の新人時代の出来事だった。
ミスターが何球か投げるうち、篠塚氏の打撃フォームの違和感に気付く。
「バットを見せてみろ」
篠塚氏が自らのバットを差し出すと、ミスターは、
「こんなバット使えるか!」
そう言って、放り投げたのである。比較的短く太かったそのバットはV9戦士の土井正三氏が、細身の篠塚氏に適しているだろうと、貸し与えたものだったのだ。以降、篠塚氏は細めのバットを使うようになる。
その篠塚氏に憧れを抱いたイチロー氏も、形状が似通ったバットを使用し、大記録を打ち立てたという。ミスターが違和感に気付かなければ、ひょっとすると「世界のイチロー」は誕生していなかったかもしれないのだ。
土井氏といえば、オリックス監督時代に、イチロー氏の「振り子打法」を批判し、その素質を見抜けなかったとされるのだが、さにあらず。イチロー氏は土井氏の指摘を理解し、MLBでは振り子打法を封印している。
(所ひで/ユーチューブライター)