まず、A氏が巨額の資産を将来にわたり維持すべく脱税と節税の境目のグレーゾーンに位置する行為である「租税回避」を行おうとした可能性を指摘するのは税理士の宮原博徳氏だ。
「相続税や贈与税について、現行の日本の法律では、国内居住の贈与者が、日本国籍を持たない国外居住の相続人に相続・贈与を行った場合、国外財産も課税対象となっています。ただし、贈与者も国外に居住している場合は、非課税です。A氏は、この“抜け穴”に着目し、みずから海外に移り住み、タイでの代理出産を試みたのではないでしょうか。また、今年1月より5000万円を超える預金、不動産などの国外財産を所有する資産家に調書の提出を求める制度が新設。そこで多くの子供たちに分散して相続・贈与を行うことで調書の提出を回避するという目的も考えられる」
さらにX社経営幹部は、A氏は父親のB氏に利用されているだけだ、と言って、こう打ち明ける。
「何しろ会長のB氏は、携帯電話から、コピー機など金になりそうなものに次々手を出し事業を拡大してきた人物。またウチの会社は、B氏のA氏以外にいる2人の息子にも株式を保有させ、創業者一族でX社の過半数を超える株式を取得するなど一族支配の傾向が強い。B氏は、息子に生前贈与した資産が目減りするのを防ぐために、みずからが租税回避スキームを指南した可能性も十分考えられます。とはいえ、子供の数が20人となると、このスキームを実行するにせよ、さすがに多すぎますが‥‥」
これに関連して、8月14日付のタイの有力紙などでは、昨年A氏が人工授精サービスなどを提供する医療機関の関係者に「1年に10~15人の子供を作りたい」と話したと報じられた。タイ在住のジャーナリストが言う。
「実際にA氏は、この医療機関を通じ2人の代理母を紹介され、双子を含む3人の子供をもうけているんですが、さらにその後A氏は『100~1000人の子供を作る計画がある』とこの医療機関に伝え、新たに代理母の紹介を求め、断られています」
さらにA氏は「年を取ってからも子供ができるように」とこの医療機関を訪れ、精子の凍結保存まで行っていたという。
これまでに、実際にA氏の依頼で代理母となったタイ人女性(21)が複数のメディアの取材に応じ、A氏が提供した人工受精済みの受精卵を受け入れ、出産した報酬は、30万バーツ(日本円で約100万円)だったと明かしている。単純計算で、A氏は1人当たりこの額の報酬を支払ったとしても、その他、代理出産にはかなりの費用がかかるはずだ。それで、1000人もの子供をもうけようというのだから、まさに「乳児養殖」とでも言うべき闇ビジネス計画でもあるのかと疑いたくなってくる。
「動機についてA氏は、『世界のために私ができる最善のことは、たくさんの子供を残すこと』と話したそうです。一連の言動を不審に思った医療機関のスタッフは、A氏の人身売買などへの関与を危惧し、昨年8月には、国際刑事警察機構(インターポール)や日本大使館、BBCやCNNなどの海外の主要メディアにも通報した」(ジャーナリスト)
しかしなぜか、捜査は行われなかったというが、実際、近年、東南アジア諸国では人身売買による幼児売春や臓器売買などの闇ビジネスが横行しているのは事実だ。事情に詳しいフリーライターが言う。
「フィリピンでは、臓器が根こそぎ抜き取られた幼児の遺体が発見される事件が報じられています。また、カンボジアの臓器ブローカーが臓器の摘出をタイの医療機関に依頼。依頼者から約150万円の報酬を受け取り、逮捕されている。また、臓器ではなく、富裕な小児性愛者が、養子にして自分の自由にできる子供を斡旋してもらうというケースもあるといいます」