4月30日に京都競馬場で行われた春の天皇賞(芝3200メートル)は、クリストフ・ルメール騎乗の2番人気馬ジャスティンパレスが、2着馬に2馬身半差をつけて快勝した。
天皇賞・春は、最も距離の長いGIレースとして知られている。この長丁場を走り切ることが、馬はむろんのこと、鞍上にとっても、いかに過酷なものであるか。
実はJRA(日本中央競馬会)がレース後に公開したジョッキーカメラの動画には、剛腕ルメールの精も根も尽き果てた息遣いが、克明に記録されている。
ちなみに、ジョッキーカメラの動画は騎手のヘルメットに装着された小型カメラによって録画されたもので、手綱を握る騎手目線からの迫力ある映像のほか、ゴール後に騎手が口にした生々しい肉声などを、YouTubeで視聴することができる。
ルメール・カメラの動画を見ると、ゴールの瞬間、ルメールは「イエス!」とひと言、喜びの声を上げるが、その後は「ハァ、ハァ」という荒い息遣いだけが続く。
しばらくしてから愛馬に「グッドボーイ!」と声をかけるも「ハァ、ハァ」という苦しげな息遣いはなおも収まらず、時折、声を絞り出すように「よかった!」「グッドトリップ!」「アリガトゴザマス!」などの言葉を発するのが精一杯。
スタンド前に引き上げてきてからも、出迎えた厩舎関係者らに「素晴らしい!」「おめでとう!」「よし!」「やった!」「完璧!」などの声をかけるが、「ハァ、ハァ」という荒く苦しげな息遣いは、動画が終わるまで延々と続いたのである。競馬評論家が言う。
「騎乗技術や騎乗姿勢にムダがなく、剛腕と評される名手のルメールですら、この有様ですからね。春天はバテ比べのレースと言われますが、この点は馬上のジョッキーにとっても同じ。男性騎手に比べて体力的に劣る女性騎手の場合はなおさらで、例えば藤田菜七子が新潟の千直で良績を示してきたのも、その裏返しなのです」
今年の春天では、アフリカンゴールドとタイトルホルダーの2頭がレース中に競走を中止し、後者には故障が見つかっている。まさに人馬ともに、過酷極まるレースだったのだ。