長らく「2類相当」とされてきた新型コロナの感染症法上の位置づけが、5月8日から季節性インフルエンザなどと同等の「5類」に格下げされた。これによって、今後は国が一律に要請してきた感染対策も、個人の判断に委ねられることになる。
これに先立つ5月5日には、WHO(世界保健機関)のテドロス事務局長も、2020年1月に発出した「新型コロナを巡る緊急事態宣言」の終了を発表。日本国内のみならず、世界各国でも「コロナ禍は一定の終息をみた」とのムードが広がり始めている。
だが、ウイルス学や感染症学など複数の専門家らは、口を揃えて「新型コロナの脅威は去っていない」と警告している。カギを握るのは、コロナウイルスと体温の関係だ。
実はヒトの場合、肺の中の体温は上気道の中の体温に比べて、ずっと高い。そして当初の武漢株やデルタ株は、体温の高い肺の中で増殖するという性質を持っていた。その結果、致命的な肺炎を引き起こし、多数の死者が出たのである。
一方、現在のオミクロン系統株は、体温の低い上気道で増殖するという性質に変わった。このような変異のパターンは「ウイルスの低温馴致」と呼ばれ、その結果、致死的な肺炎をほとんど引き起こさない、弱毒性のウイルスへと姿を変えたことになる。
しかし、たまたま低温馴致で弱毒化したウイルスが、今後もそのままの状態であり続ける保証など、どこにもない。ウイルス学の専門家も、次のように指摘しているのだ。
「オミクロン系統株は、今も活発に変異し続けている。ウイルス学の常識から言えば、いったん弱毒化したウイルスが再び強毒化する危険性は、常に存在するのです」
しかも、ウイルスが変異を遂げる機会は、感染者が増えれば増えるほど、それだけ増大していくのだ。ウイルス学の専門家が続ける。
「中でも懸念されるのは、無症状の感染者が、免疫システムに問題のある人たちに感染を拡大させていくケースです。この場合、ウイルスは免疫不全の人の体内で爆発的に増殖しますから、強毒化変異が起こる確率も極めて高くなると考えられています」
脱コロナが始まった今だからこそ、いっそうの警戒が必要とされるのだ。