記者会見場のドアを半開きにして、ぬっと顔を半分出すと、報道陣から驚きの声が。だが、そんなざわめきを横目に、何事もないように席に着くと、会見場が笑いに包まれた。市原悦子演じる、サスペンスドラマシリーズ「家政婦は見た!」(テレビ朝日系)が、26作目で最終回(2008年7月12日放送)を迎えることになり、ヒロイン石崎秋子に扮する市原が2008年6月30日、記者会見に臨んだ。
ドラマの初回放送は1983年。この作品、実は「殺人なしのサスペンスなどウケるはずがない」との理由から、企画段階で2年ほどペンディングされたのだという。
ところが、だ。派遣された先々で聞き耳を立て、ドアのすき間で息を飲む、好奇心の塊のような家政婦・秋子の強烈な個性と、彼女の目を通して描き出されるドロドロの人間模様が視聴者の心をつかみ、ドラマは大ヒット。毎年シリーズ化される名物ドラマとなったのである。
会見で市原が語ったのは、
「寂しさはありますが、ホッとしています。夫も子も貯金もなく、頑張って働く秋子がいとおしかった。やっぱり人のことは気になるもの。でも、ボ~ッと見ていたんじゃないの。しっかりと物事を見聞きして、知った真実への憤りがいつも頭にあった」
ドラマの最後には、真相を暴露する秋子が派遣先を追われるが、これについては、
「結局、事態が変わらないのは、ドラマというより世の中がそうだから。いつも苦い気持ちが残りましたね」
そして庶民の代表であり、代弁者でもあった秋子の今後について聞かれると、
「野たれ死にするんでしょうか。現実は厳しくても、今まで元気で働けた。そんな終わり方に満足しています」
そう言って、声を詰まらせたのである。
そんな市原が心不全のため、82歳で旅立ったのは、19年1月12日だった。「自己免疫性脊髄炎」という難病に襲われたのが16年11月。懸命なリハビリの効果もあり、専門病院から退院して、翌18年3月には仕事復帰を果たしていた。ところが秋口になり、元気がなくなっていたという。その理由を、テレビ関係者はこう語った。
「9月15日に樹木希林さん(享年75)が亡くなりましたが、市原さんと樹木さんは、15年に公開された映画『あん』で初共演して以降、同志のような関係にあったようです。樹木さんは自宅療養でガンと向き合い、仕事を続けてきましたが、市原さんも自宅で病気と向き合いながら仕事をしたいと考えていた。親友のためにも頑張りたいという気持ちの裏で、希林さんの死去には大きなショックを受けていました」
先の記者会見で「今度は根っからの悪女をやりたいですね。今までとは逆の方をね。うふふふふ」と笑顔を見せた市原。もしかしたら、天国で樹木さんと2人、稀代の悪女を演じ、オーディエンスを楽しませているかもしれない。
(山川敦司)
1962年生まれ。テレビ制作会社を経て「女性自身」記者に。その後「週刊女性」「女性セブン」記者を経てフリーランスに。芸能、事件、皇室等、これまで8000以上の記者会見を取材した。「東方神起の涙」「ユノの流儀」(共にイースト・プレス)「幸せのきずな」(リーブル出版)ほか、著書多数。