さて、もちろん説明会に出席しなかった道民たちも今回の値上げには怒りを隠さない。芽室町に住む70代の男性が言う。
「ウチは、冬の暖房はできるだけ薪ストーブにして電気代を節約していこうとは思っていますが、薪割りは年寄りには重労働。足腰にも負担がかかりますよ。最近は薪を購入することもできますが、そうするとかえって高くつく。太陽光自家発電も考えましたが、初期費用が約300万円もかかり、厳しすぎる。結局、蓄熱ストーブなど電化製品に頼らざるをえない状況ですよ」
企業や自営業者も戦々恐々だ。何しろ前述したように、法人に適用される値上げ率は一般家庭より3割以上も割高なのだ。
北電の電気料金再値上げ申請直後に、北海道庁が道内1000社にアンケートを行ったところ、実に9割以上が「経営に深刻な影響を与える」と回答した。
プロ野球の日本ハムやコンサドーレ札幌の主催試合が行われる札幌ドームでは、
「太陽光による自家発電設備を設置して北電からの電力購入を抑制しています。夏季には館内トイレの便座ヒーターの停止、自然採光の積極利用などにより節約に努めています。さらにアリーナやコンコースの照明のLED化も検討しています」(担当者)
と、地道な努力で耐え忍ぶ構えを見せるが、帯広市の藤丸百貨店の担当者は、「もはや打つ手はないです」と言って本音を吐露する。
「すでに店内の9割以上の電灯をLED照明に交換し、夏場は空調を全館で1度上げ、開店5分前まで照明を点灯させないなど徹底的に節電しました。ですが、さらに再値上げとなると対策にも限界があります」
十勝平野の豊頃町の牧場で約1200頭の乳牛を飼育する農業法人組合「Jリード」を経営する井下英透さん(56)が、力なくこう声を落とす。
「ここ数年、穀物価格が高騰し飼料代も大きな負担になっていますが、酪農経営では冷暖房や乾燥機、搾乳関連機、冷却装置など、大量の電力を使用するんです。月間電気料金は昨年9月の値上がり時までは約90万円、9月以降は約100万円でした。それが再値上げが実施されると120万~130万円に上昇して年間300万円の負担増になりそうです。生乳を値上げしようにも、農協を通じて各乳製品メーカーと価格交渉をしているため、すぐに値上げはできません。北電は『経営が悪化したから電力を値上げする』と簡単に言いますが納得できませんよ。だからといって、原発の再稼働に賛成して電気料金が値下げされても、もし福島のようなことがあれば風評被害などで廃業に追い込まれる。もう八方塞がりですよ」
北海道庁経済部は、「本道経済は、緩やかに持ち直している」と発表しているが、その一方で札幌市すすきので居酒屋を営む40代男性は「景気回復の兆しはまったくない」と断言する。
福島原発事故による全国の原発停止以降、日本の電力会社で初めて2度目の値上げに踏み切ろうとする、北電に翻弄される道民の姿。それは、北海道以外に住む国民にとっても「明日は我が身」も同然‥‥。