阪神が合言葉の「アレ」に向けて抜け出すムードが濃厚になっている。首位を走っていたDeNAを甲子園に迎えた5月12日からの3連戦で3連勝を飾り、単独首位に浮上した。投打の歯車がガッチリと噛み合い、岡田監督も「そら流れがいい」と手応えを感じている。DeNAは打線が勢いづけば手をつけられない強さがある一方、攻守に粗さがある。3連覇を狙うヤクルトは今ひとつエンジンのかかりが悪く、巨人はリリーフ陣が壊滅状態。ライバルが苦しむ中、ここに来て阪神の安定感が際立っている。
昨季までは主力の大山や佐藤輝も含めて打順、守備が日替わり状態やった。岡田監督になってベンチがドッシリと構えているから、選手も落ち着いてプレーできている。今年は捕手と右翼以外はメンバーを固定。その効果もあって、近年の課題だった打力と守備力が2つとも解消されつつある。もともと投手陣はリーグ屈指の力があったから、自然と白星が転がり込んでくる。中でも目立つのが不動の1番打者・近本の活躍。開幕からチャンスメイクとポイントゲッターの両方の役目を果たして、打線を引っ張っている。
昨季までの近本は初球から積極的に振っていくタイプやったが、今年はファーストストライクを余裕を持って見逃せるようになった。これは岡田監督の指導によるところが大きい。近本だけでなく、打線全体に言えること。仕掛けを遅くして、ボール球を振らなくなったから打者有利なカウントに持ち込めることが多くなった。特に1番打者は球数を投げさせた方が、後ろの打者が球筋や配球をイメージできて打ちやすい。僕も若い頃は初球から振ってベンチに帰ると必ず叱られていた。「ツーストライクに追い込まれても簡単には三振しない」と自信がついてからは、相手にハンデを与えるぐらいの気持ちでストライクを見送った。速い球にタイミングを合わせていれば、変化球はついていけるとわかってからは打撃が簡単になった。
近本も僕と同じような感覚でバッティングが簡単になったんと違うかな。昨季はシーズンで「41」と少なかった四球が、今季は倍近くのペースで稼げている。四球が増えれば打率3割も楽になる。4打数1安打なら2割5分でも、3打数1安打1四球で3割3分3厘となるんやから。塁に出るだけでなく、特筆すべきはここまで5割を超える得点圏打率の高さ。1番打者ながら佐藤輝、大山らとリーグの打点王を争っている。バットを短く持って迷いなく振り切ることができているから、阪神打線の中でチャンスに一番頼りになる存在と言ってもいい。
8番に木浪、2番に中野が固定されいることも、チームにいいリズムを与えている。遊撃のレギュラーに座った木浪も打撃に開眼して打率3割をキープ。木浪が出て、投手がバントで送って、近本がかえすというパターンができあがっている。二塁にコンバートされた中野も近本への攻め方を見て打席に立てるから楽やと思う。強いチームにはいい1、2番がいる。いや、むしろ、いい1、2番がいるから強いチームとも言える。近本、中野の俊足コンビは相手球団の脅威になっているはずや。
アクシデントがなければ大型連敗の心配は少ない。05年以来の優勝に向けて、今のところ怖いのは主力選手のケガだけと違うかな。
福本豊(ふくもと・ゆたか):1968年に阪急に入団し、通算2543安打、1065盗塁。引退後はオリックスと阪神で打撃コーチ、2軍監督などを歴任。2002年、野球殿堂入り。現在はサンテレビ、ABCラジオ、スポーツ報知で解説。