「財源負担をこれから生まれる子供たちの世代に先送りすることは、本末転倒だ」
胸がすくような正論だった。5月29日に開かれた財務省の諮問機関、財政制度等審議会。審議会会長の十倉雅和経団連会長が、政府の少子化対策の財源確保へ、歳出改革の徹底と75歳以上の医療費窓口負担を原則2割に上げろと、岸田内閣の現役世代イジメにダメ出ししたのだ。
この財政制度等審議会から遡ること4日、日本医師会はフザけた声明を出していた。日本医師会の松本吉郎会長は「子供、子育ても重要だが、国民の命と健康を守るため、必要な医療費を確保するのも重要だ」「財源には限りがあるが、政府には診療報酬も必要かつ十分な形で確保してほしい」と医療の値段、診療報酬の引き上げを求めたのだ。
以前、本サイトで指摘したが、サラリーマンの給料から毎月天引きされている健康保険料の2分の1は、老人バラマキ医療費の補填に横流しされている。年収400万円のサラリーマンなら、収入の10%にあたる40万円が、老人医療費と日本医師会にぼったくられているのだ。
老人が自分の医療費を払いさえすれば、企業負担分(2分の1)を差し引いた年収の5%、年間20万円を天引きされずに済み、年間わずか12万円の「異次元の少子化対策、子ども手当」より経済効果があることは、言うまでもない。
病院経営者や開業医たちはSNSで「職員の給料を上げるために、診療報酬引き上げは必要」と弁解しているが、これは真っ赤なウソ。これまで診療報酬が引き上げられても、職員のベースアップに結びついたためしはなく、むしろこの20年間、正規雇用、臨時雇用の看護師や薬剤師、技師の給与と賞与は下がり続けている。
例えば新型コロナがまだ2類だった頃、自宅療養中の患者に健康観察の電話をするだけで、医師には新型コロナ陽性患者1人あたり3000円の診療報酬が支払われていた。
健康観察なんて5分から10分で終わる。医師とクリニックの維持費、看護師の報酬に3等分したとしても、実際にコロナ患者の健康観察にあたる看護師に、電話1件あたり1000円の報酬があって然るべきだろう。
ところが新型コロナを診ていたクリニックが看護師に支払っていた時給は、わずか1800円から2000円。コロナの診療報酬を荒稼ぎするだけ荒稼ぎして、従業員に還元してこなかった。新型コロナ医療費は全額公費助成、つまり税金だ。学校行事を禁じ、経済活動を止め、国民に行動制限を強いていながらパーティーに興じていたウソつき日本医師会が(2023年5月2日公開記事)、どの口で「診療報酬をよこせ」と言うのか。
医薬品や医療機材を販売する住友化学出身の十倉会長が、顧客の医師たちに苦言を呈するのは、よほどのこと。それだけ日本医師会と病院経営者たちがカネに汚いということだ。
今回ばかりは「老人へのバラマキ廃止」を英断した経団連と財務官僚を、全力で応援したい。
(那須優子/医療ジャーナリスト)