その昔、マニアックな店でしか手に入らなかったが、90年代初頭からの、有名女性芸能人によるヘア写真集の台頭により、過激な写真を掲載したムック等は、ごく普通にコンビニでも手に入るようになった。
そんな時代にあって、他誌とは一線を画す過激さをウリにして、売り上げを伸ばしていたのが、写真家の加納典明氏が撮り下ろした写真集「きクゼ2!」(竹書房刊)である。
しかし、その過激さから1995年1月24日、警視庁保安課が都内の加納氏の事務所と発売元の竹書房を猥褻図画販売の疑いで家宅捜査。加納氏には事情聴取が行われ、全国の警察が同誌の回収に乗り出す騒動に発展したのである。
摘発を受けた翌25日、加納氏は東京・青山の事務所で記者会見に臨む。
「そもそも猥褻の概念自体がわからない。俺の中では、猥褻なものなんてないね。俺がこの手(ヘア写真)のトップであり、本丸でもあるわけだから、桜田商事(警視庁)も、本丸を落とせば他も自然におとなしくなると考えたんだろう。だいたいお上が、ここまではいい、ここまではダメだ、なんていう社会はよくないと思う。そういう社会にケンカを売っていたい、それが俺の生き方だ。お上が法律を盾に『NO』というんだったら、日本は法治国家なんだから、裁判で白黒つければいい」
警視庁に対し、徹底抗戦も辞さない、と宣戦布告したのである。
とはいえ、警視庁もさすがに、この発言を見過ごすわけにいかなかったのだろう。2月13日、加納氏を猥褻図画販売容疑で逮捕したのだ。
ただ、会見での宣言通り、取調べに徹底抗戦しているのでは、思われていた加納氏。しかし、警視庁サイドから漏れてくる情報は「実物、そのものが写っていなければ大丈夫だと思っていました。ごめんなさい。もうしません」と、あっさり謝罪、反省の弁を繰り返すばかり…という耳を疑うものだった。警視庁担当記者に話を聞くと、
「取調べで突っ張れば、地検は起訴して裁判に持ち込みます。加納さんの場合、簡易裁判所の略式起訴で、罰金50万円を支払い、逮捕から12日で釈放という流れですから、彼が全面的に非を認めて謝罪したことは間違いないでしょう」
この騒動、結局は記者会見での怪気炎はどこへやら、やはり「桜田商事」には抗えず、言行不一致という結果に終わってしまったのである。
(山川敦司)
1962年生まれ。テレビ制作会社を経て「女性自身」記者に。その後「週刊女性」「女性セブン」記者を経てフリーランスに。芸能、事件、皇室等、これまで8000以上の記者会見を取材した。「東方神起の涙」「ユノの流儀」(共にイースト・プレス)「幸せのきずな」(リーブル出版)ほか、著書多数。