サッカー界の伝説的プレーヤーがまたひとり、電撃的にピッチを去った。通算得点573が全世界で歴代13位という記録を誇るスウェーデン代表のストライカー、ズラタン・イブラヒモビッチだ。
「海外サッカー好き以外には、メッシやロナウドほどの知名度はありません。しかし一部には、その両者よりも熱狂的なファンが存在する選手でした。その理由は、記憶に残るアクロバティックなプレーでスーパーゴールをバシバシ決める独特のスタイルと、ビッグマウス連発の『オレ様キャラ』にあります」(サッカー誌記者)
例えばこうだ。スウェーデンの国内リーグの有望選手にすぎなかった17歳の頃、今は冨安健洋が所属するイングランドの強豪チーム、アーセナルに勧誘され、まずはトライアルを受けるように言われた。だがそこで、
「ズラタンにオーディションは必要ない」
と言って断ったのだ。まだプロとしてまともなキャリアも始まっていない頃から、強烈な自我を持つ選手だったわけだ。インタビューなどに答える際、自身のことをファーストネームの「ズラタン」と呼ぶのも、自分こそがオンリーワン、という自信の表れといえよう。
プレースタイルが故国スウェーデン流なのか、ルーツを持つ旧ユーゴスラビア流なのか、とインタビュアーに問われたら、
「俺はズラタン流だ!」
と答え、スウェーデンがW杯のヨーロッパ予選で敗退した際にも、
「ズラタンのいないW杯はW杯じゃない」
とカマす。恋人の誕生日にどんなプレゼントを上げるのかと聞いたリポーターには、
「何も。だって彼女にはもうズラタンがいるからな」
と自信満々に言い放つ。ファンはその、ふてぶてしくもどこか愛嬌たっぷりの「ズラタン流」に魅了されてきた。
ほかにも、
「エッフェル塔の代わりに俺の銅像を建てるなら残ってやる」(所属チームのパリ・サンジェルマンと契約満了した際)
「故意にケガさせたわけじゃない。だが文句を言うなら、両足をへし折る。今度は故意にな」(プレー中、けがをさせてしまった相手に)
「神を信じないヤツには、言葉ではなくピッチで示す」(引退シーズンに、全治8カ月のヒザのケガから復帰して。その後に得点し、同リーグの最年長ゴール記録を更新)
などなど、悪童発言には枚挙にいとまがない。
またイブラヒモビッチのプレースタイルにおいては、幼い頃に習っていたテコンドーが影響していると言われる。足を高く上げたオーバーヘッドキックや、体を回転させたヒールキックで、何度も得点を奪ってきたのだが、そのテコンドー仕込みの「殺人技」を披露したこともあった。
イタリア代表DFのマテラッツィはアグレッシブな守備で有名な選手で、イブラヒモビッチは対戦するたびに激しいマークを受け、ケガをさせられたこともあった。そんな因縁の相手と試合中にハイボールを競り合った際、イブラヒモビッチはおもむろに太腿にジャンピングキックを見舞い、おまけにこめかみにエルボーを食らわせたのだ。
のちにインタビューで、
「殺人タックルを食らったから、病院送りにしてやったんだ」
と全く悪びれずに答えても許されたイブラヒモビッチは、本人が自称する通り、「ピッチ上の神」だったのかもしれない。