政府の新型コロナウイルス感染症対策分科会長を務めた尾身茂氏は6月14日、東京都内で開かれた会合で「第9波の入り口にきたのではないか」と語った。はたして本当だろうか。
新型コロナの感染症法上の分類が5類になり、患者数のカウント方法は変わった。全国約5000カ所の定点医療機関から患者数が報告されるのだが、1カ月で報告された感染者数が2.5倍に増えたことを根拠に「コロナ第9波」が近づいているのだという。だが、東京都や大阪府の新型コロナポータルサイトで感染者数の推移を見ると、第8波の高波と比べれば、波というより凪に近い(同じ定点観測数で比較)。
新型コロナで行動制限していたおかげで、生まれてからずっと「無菌状態」で育った幼児は何の免疫もないため、5類に移行後、一気にウイルスに晒されて、インフルエンザ、ヘルパンギーナにアデノウイルスまで多種多様なウイルスに感染。熱が出て、喉が腫れている。ウイルスが怖いのではなく、親自体が子供の発熱、看病に慣れていないのが怖い。脱水症状を起こしたり、坐薬を使うのを躊躇するからだ。「コロナで活動を制限していた弊害」が、一気に吹き出した。
高齢者施設での感染が相次いでいると報道されているが、それも当然だ。5類移行後、余った検査キットは老人ホームに寄贈され、毎日のように検査が行われている。そんなに検査をやったら、陽性になる。今のところ「第9波」は、実態を伴わない医師のマッチポンプに近いのだ。
全国各地の高校で、学年閉鎖や学校閉鎖は起きているが、それも風邪症状があるのに登校した生徒から拡散したのか、無症状の生徒から拡散したのか、さっぱり要領を得ない。しかも全校生徒に検査するから、無症状の子供たちから陽性がボロボロ出る。
感染が怖い家庭は子供の学校行事は不参加でいいし、重症化リスクのある人は感染対策を徹底すればいい。
外食産業、観光業を中心に、国民はコロナ感染と活動自粛という2種類の苦難に耐えてきた。医師や専門家は国民に我慢を強いた上に、医療費で国民生活を圧迫している。であれば、
「無症状の人から、新型コロナウイルスはうつるのか」
3年越しの国民の疑問に、きちんと答えるべきだろう。
(那須優子/医療ジャーナリスト)