予想を上回る大健闘と言っていいやろね。新庄監督の率いる日本ハムが存在感を見せている。開幕前の予想は僕も含めて多くの解説者が最下位に置いていた。一番のマイナス要素はWBC日本代表にも選ばれた近藤健介がFAでソフトバンクに移籍したこと。打線の核が抜けてガタガタになると思ってたら、新庄監督が若手を上手に育てながら使っている。交流戦ではセ・リーグで首位を走る阪神に勝ち越し成功。リーグ4位の力がフロックでないことを示した。
就任1年目の昨年は松本剛に首位打者を獲らせたのに続き、今年はホームラン王を誕生させる可能性がある。高卒4年目の万波中正が、ここまでリーグトップの11本塁打と覚醒中。昨季は14本塁打を放ったものの打率は2割3厘。さすがに率が低すぎた。今年はレギュラーとして我慢できる2割5分を上回っている。外野手としての肩はメジャー級。10日の阪神戦では打撃は4打数無安打でも、ライトから好返球、ホームでタッチアウトにして1点差勝利に貢献した。打つ方の調子が落ちても使い続けたくなる力を見せている。
新庄監督は育てるだけでなく、見る目もある。強い希望でドラフト3位指名した逆輸入ルーキーの加藤豪将が、期待どおりの働き。無駄な動きを省いた独特のノーステップ打法で3割を上回る打率を残している。足を上げない分、タイミングを取るのが難しいはずやけど、自分なりのタイミングの取り方があるんやろね。叩き上げでメジャーリーグに昇格した力はダテではなかった。アンダースローに転向させた鈴木健矢は阪神相手に6回無失点、その時点でリーグトップの6勝目。結果が出ないならダメ元で思い切ってトライさせる。新庄の勘ピューターで野球人生が変わった。
僕としては、もう一皮むけてほしいのが阪神からトレードの江越。9日の古巣での一戦では1番でスタメン起用されて、逆方向への4号ソロ。恩返しの一打を放ったけど、3連戦の3戦目はスタメンを外された。でも、2割を切る打率では仕方がない。当たれば飛ぶんやから振り回さなくもいいのに、ボール球にも手を出してしまう。阪神時代から「もったいない」と思いながら応援していた選手。もっと危機感を持ってやってほしい。
もう1人残念なのが、ドラフト1位ルーキーの矢澤宏太。二刀流選手として評判で、新庄監督も期待して使っていた。それなのに僕がいちばん嫌うケガの仕方をした。6月3日の巨人戦でホームへのヘッドスライディングで左手小指と右膝を痛めて、登録を抹消された。二刀流の選手が頭から突っ込んで自爆したらアカン。大谷翔平を見習ってほしい。日本ハム時代、当時の栗山監督に怒られてからヘッドスライディングをしなくなった。プロはケガせずにいいプレーをすることが最も大事なんやから。
新庄監督の野球は何をしてくるかわからないから面白い。相手も戦々恐々やと思う。そういう思い切った采配を大舞台でも見てみたい。チャンスは十分にある。
パ・リーグはオリックスとソフトバンクの2強の争いになると見ている。ロッテ、楽天、西武はドングリの背比べ。日本ハムは清宮が戻れば打線はさらに強化される。何か持っている選手やから、プラスαの勢いも出るはず。CS争いを大いに盛り上げてほしい。
福本豊(ふくもと・ゆたか):1968年に阪急に入団し、通算2543安打、1065盗塁。引退後はオリックスと阪神で打撃コーチ、2軍監督などを歴任。2002年、野球殿堂入り。現在はサンテレビ、ABCラジオ、スポーツ報知で解説。