テリー そもそも師匠が落語家を志したのは、いつだったんですか。
一之輔 小学校5、6年生の時の授業で、全員が何かのクラブに入らなきゃいけなくて、いちばん人が少ないのが「落語クラブ」だったんですよ。「じゃあ、なるべく人のいないところがいいから、ここにしよう」と。その時に先生に「これを覚えろ」と言われて落語をやったのが最初ですね。
テリー 古典ですか。
一之輔 古典です。だから僕の初公演は、小学校5年生の時に、体育館で1500人の前だったんです。
テリー お生まれはどちらでしたっけ。
一之輔 千葉県の野田市です。で、しばらくは落語とは縁が切れてたんですけど、高校生になってラグビー部に入ったんですね。
テリー すごい。運動神経がいいんだ。
一之輔 いや、そのラグビーが全然ダメで。ラグビーってミスすると、完全に足を引っ張ってるのが丸わかりの競技なんですよね。
テリー あ、そうなんだ。
一之輔 ええ。ボールをパスして落としたら全員そこまで戻らなきゃいけなかったりとか。すごい形相でニラまれるんですよ。それが針のむしろで、トレーニングもキツいし。それで1年でもう無理だと思ってやめたんです。
テリー へぇ。
一之輔 で、時間ができたから何しようと思った時に、ゴールデンウイークにフラッと1人で浅草に行ったんですね。そしたら、浅草演芸ホールののぼりが見えて、「そう言えば落語って、ちゃんと中に入って聴いたことなかったな」って、フラフラ入ったのが落語にハマるきっかけですね。
テリー どこがそんなによかったんですか。
一之輔 もうお客さんが全然いないんですよ。いても、はとバスで来たようなお年寄りばっかりで。
テリー 出てくるのも年寄りばっかりだしね。
一之輔 そうですよね。それで、「何だ、この空間は」と思って。出てくる人はやる気なさそうだし、聴いてる人もそんなに聴く気がないんですよ。何かお互いがマイナス同士で、背中を向け合ってるような状態で。
テリー 負のオーラが漂ってますよね。
一之輔 ただ僕、その時に昼の頭から昼の最後まで4時間ぐらいいたんですけど、時々おもしろい人が出てきたりして、だんだん客席も前のめりになってくるんですね。で、その時は最後、(春風亭)昇太師匠の師匠、柳昇(りゅうしょう)師匠が出てきたんですよ、もう75、6のおじいさんですけど。
テリー すごくおもしろい人ですね。
一之輔 おもしろいですね。何言ってるかわかんないんですよ、滑舌も悪いし。「カラオケ病院」っていう落語をやってたんですけど。そしたら、また客席がひっくり返るように笑って。そのまま頭下げて、幕が閉まったんです。すごいウケてるのに特段「してやったり」みたいな顔もしないし、ウケなくても飄々(ひょうひょう)と帰っていくんですよ。その空間が「何か、いいもん見っけたな」っていう。
テリー へぇ、大人ですよね。僕だったら「漫才とかコントの方が女の子にモテる」って思うんじゃないかな。
一之輔 昔から女性にモテようというのは、あんまりなくて。男子校だから、女の子とかかわりなく、「モテないほうが格好いい」ぐらいに思ってたんですよ。だから、「あそこに出てる人、格好いい」みたいな。おじさんばっかりだし、大して格好よくないんですけど(笑)。
テリー 高校生でそう思ったんだ?
一之輔 はい。嫌な高校生でしたね。