●ゲスト:林家たい平(はやしや・たいへい) 落語家。埼玉県出身。87年に武蔵野美術大学造形学部を卒業後、林家こん平に入門。92年に二つ目、00年に真打に昇進。落語は子供たちの想像力を育む文化であるとの考えから、親子向けの落語会や講演を行うなど、従来の落語家の枠を越え精力的に活動を行っている。自身が企画した「もういちど」が、全国のイオンシネマにて公開中。映画公式サイトhttp://moichido.jp/
美大卒という異色の経歴を持つ落語家・林家たい平。落語の魅力を一人でも多くの人に伝えたいと、寄席空間を越え映画などさまざまな表現方法に挑戦中だ。そんなたい平氏の親友でもある天才テリーが、今回の映画作品に込められた思いから、内弟子時代の秘話までじっくりと聞き出した!
テリー 8月23日から映画「もういちど」が公開されていますけど、師匠が映画を企画するのは、これで3作目なんだよね。
たい平 はい。2作目までは「映画館落語」といって、落語を撮って、寄席の空気をそのまま全国にスクリーンで伝えよう、という趣旨で作っていました。
テリー 今回は時代劇として撮っていて、制作費もかかっているよね。どうしてこの映画を作ろうと思ったの?
たい平 子供にどういうふうにボールを投げたら、落語という世界が届くかなと考えたんです。その時に、もっと違う変化球を投げないと、落語の力だけでは、なかなか子供たちには届かないなと。そこをずっと考えあぐねていたんです。その時に、板屋宏幸監督にお会いして。彼がそういう私の思いをくみ取ってくださって、脚本にしてくれたんですね。
テリー どうして子供に落語が大事だと思ったの?
たい平 戦争や環境破壊やいじめとか、こういう時代に、想像力ってものすごく必要だと思ったんですね。だけど、今ってあまり、自分でわざわざ考えるようなことって実は少ないじゃないですか。何でも情報、情報で、テレビを見ていれば、全部自分で考えたような気持ちになっちゃう。
テリー ネットで検索も全部できちゃうからね。
たい平 例えば僕の時代は、白黒テレビで色を想像したり、カセットテープに入ったエンジン音でスーパーカーを想像したり、そういうことが日常の中であった。でも今の子供たちは便利な時代になったからこそ、想像力のエンジンを回すきっかけがなくなっているな、と。だから想像力を持つと、どんなにすばらしい世界が見られるか、そのことを知るきっかけを落語で伝えたいなと思ったんです。
テリー なるほどね。巨人軍の阿部慎之助とか高橋由伸が、野球をあまり見てない子供たちの学校に行って、一緒に弁当や給食を食べてたりするんだよね。どうしてですかって聞いたら、野球をやってる子供たちじゃない子に接して、野球を好きになってもらいたいと。それと近いよね。
たい平 そうですね。「たまには寄席にでも行くか」みたいな選択肢が1つあるだけで、人生の楽しさが違うと思うので、一人でも多くの方に、落語に出会ってもらいたいというのが、落語家であるかなりの部分を占めてますね。