テリー 今増えてるんですか、新しく落語家になりたいっていう人は。
一之輔 年間10人ぐらいは増えてるんじゃないですかね。
テリー 師匠のところにも来るんでしょう、弟子にしてくれって人が。
一之輔 来ますよ。寄席とかの楽屋口で待ってますね。
テリー だいたい何歳ぐらいの人が来るんですか。
一之輔 まちまちです。コロナがいちばんひどかった時は、どう見ても54、5歳の人が来ましたね。ヨレヨレのポロシャツで近づいてきて、「弟子にしてください」って言うから、「おいくつですか?」って聞いたら「62です」って。
テリー いいですねぇ(笑)。弟子にしたんでしょう?
一之輔 いや、僕45ですから、順番から言えば先に死んじゃうだろうし、面倒見きれないですから。だから「取れないですね」って言ったら、ふてくされ気味で行っちゃいましたね。
テリー あ、そう(笑)。
一之輔 で、そのままラーメン屋に行ったんですよ。今の自分の21歳の弟子も後片づけしたら来ることになってたのに、なかなか来ないんですね。それで、やっと来たから「遅かったね」って言ったら、「すみません、今、僕に弟子入りが来て」って。その62が21に弟子入りしようとしたんです。
テリー ええっ!?
一之輔 危うく孫弟子ができるところでした。そういう人も来ますし、最近は女性も来ますね。
テリー 今、お弟子さんは。
一之輔 4人です。
テリー 弟子にするかはどこで決めるんですか。
一之輔 感覚ですね。何度断っても来るようなら、「ここが潮時かな」って取る場合もありますし。あと、歩きながら「仕事は何やってるの?」みたいな雑談の中で「この人のしゃべり方、何か不快だな」と思うと断る場合もあります。
テリー 今、一之輔さんは落語界を背負ってる落語家さんの1人だと思うんですね。これからの落語界をどうしたいとか、個人的な目標はあるんですか。
一之輔 僕、こういう落語家になりたいって目標を持たずに、何となく来ちゃったんですね。笑点もそうだし、真打に抜擢された時も、「まぁ、周りがそう言ってくれるなら、そういうもんだろう」と思いながら。で、最終的な目標はですね。
テリー あるんですね。
一之輔 死ぬ前日まで落語をやって。たぶん、今はけっこう独演会とかもやらせてもらってますけど、仕事はなくなるので、最終的に末廣亭とかのすごい浅い、昼の1時半ぐらいの時間帯に、1日1席だけやって、帰りにマルエツとかでお惣菜を買って、それをビールを飲みながら食べて、またあくる日も寄席に行って、「次の日死んでた」みたいなのが、最終目標ですね。つまんない目標ですけどね。
テリー いや、いいですね。
一之輔 僕が前座の頃はそういうおじいさんがいっぱいいたんですよ。先代の柳家小せん師匠なんて、もう80ぐらいで、1人でリュック背負って楽屋に来て、持ち時間15分だって言ってるのに絶対7分しかやらないんですよ。それで後の人間が困ってるのに「お先に」って帰って行くんです。
テリー それを許してくれるのが演芸場というか、落語界の懐の深いところかな。
一之輔 そうですね。「1日7分しかやらないのに、何であの人使われてるのかね?」って言ったら、「昔頑張ってたから、席亭がお情けで使ってるんじゃない?」みたいな陰口を叩かれながら。で、若い子が時々稽古に来て、お稽古つけるよみたいな感じの。落語家としては、いい締めくくりだなと思いますね。
◆テリーからひと言
さすが師匠、若いのに風格あるなぁ。次に62歳の人が来たら、ぜひ弟子に取ってほしいよね。おもしろいから(笑)。