母親の自死を手助けした容疑で逮捕された市川猿之助は、一家心中を図った動機について「週刊誌報道をきっかけに家族会議をして、みんなでさよならすることにした」と、警察の事情聴取で語っている。
その家族会議では「死んで生まれ変わろうと話し合い、両親が睡眠薬を飲んだ」と話し、知人に残した遺書には「次の世で会おう」と書かれていたという。結果、父母は旅立ち、自分だけが生き残って「現世」にとどまることになってしまった。
猿之助はさらに「自死が悪いことだとは考えていません。私たちは輪廻転生を信じています。生まれ変わりはある、と本気で考えています」と、独自の死生観を語ったとされる。
確かに宗教や国によって考えは異なるものの、「人は死んだら生まれ変わる」という考え方は「転生現象」や「輪廻転生」という呼ばれ方で、広く知られている。
はたして猿之助が信じた「生まれ変わり」などというものが、現象として本当に存在するのか。
この「生まれ変わり現象」を長年研究する第一人者とされるのが、米バージニア大学のイアン・スティーヴンソン教授(2007年2月没)だった。サイエンスライターが解説する。
「スティーヴンソン教授と研究グループは東南アジアを中心に、前世の記憶を持つとされる子供たちの事例を2300も収集。1974年には著書『前世を記憶する20人の子供』を出版し、ベストセラーとなった研究者です。その研究方法は基本的には面接調査で、研究対象は『前世の記憶を蘇らせた』2歳から5歳までの子供と、その関係者。子供たちが自発的に『前世』を語り始めるのはこの年齢までで、多くの場合、5歳から8歳までにはそれがなくなり、さらに成長するに従い、本人の記憶から抹消されてしまうというんです」
子供たちが語る内容は「前世」の人物が死亡した時の様子、居住環境や親族に関する描写など細部にわたるが、その証言が事実と符合した例は多く、「現世」に対して違和感を訴え「本当の親に会わせてほしい」と訴える子供も少なくないという。
「教授によれば、前世の記憶を持つ子供たちの大半が、自然死ではなく他殺や自死といった非業の死により人生に終止符が打たれ、『生まれ変わった』というケース。そういった子供の場合、酒やタバコなど『幼児期に大人の嗜好品への愛好』や『早熟な性的行動』、さらには『理不尽な攻撃性』が、共通して見られたといいます」(前出・サイエンスライター)
そんなことからスティーヴンソン教授は、人間の発達は遺伝要因と環境要因に加え『生まれ変わり』という、もうひとつの要因の影響を受けるものだと推測。
「結局は死んでも生まれ変わる、輪廻転生するのであれば、自死すればその苦しみは永遠に終わらないということ。それを教授は研究で明らかにしたのです」(前出・サイエンスライター)
比叡山にある天台宗の寺院、覚性律庵の住職である光永圓道氏との共著「猿之助、比叡山に千日回峰行者を訪ねる」の中で「毎日リセットと思って生きていれば、死もそんなに恐れることではないのでは、と」と綴っていた猿之助は、はたして「生まれ変わり」をどう解釈していたのか。
(ジョン・ドゥ)