秋風が吹く時期になると、ベテラン選手の去就が報道をにぎわせます。42歳の日本ハム・稲葉が引退を発表した一方で、球界最年長49歳の中日・山本昌は50歳となる来季も現役続行が濃厚と言われています。
山本昌は今季初登板となった9月5日の阪神戦(ナゴヤD)に5回無失点で、プロ野球最年長勝利の記録を樹立しました。3度目の登板となった同23日の巨人戦(ナゴヤD)では5回3失点で黒星を喫しましたが、4回までは老練な投球で無失点に抑え、首位チームを苦しめました。
なぜプロの打者が130キロ台のストレートを打てないのか。実は遅い球を打つほうが打者の技術が必要となるのです。速い球だと反発力が利用できますが、遅い球はしっかりとバットの芯で打ち返さないと強い当たりは出ません。
プレッシャーのかかる優勝争いの佳境で軟投派の投手に当たると、本当に嫌なものです。ふだんどおりに振れば打ち崩せるはずが、力めば力むほど術中にはまってしまいます。阪神は山本昌に白星を献上したのを皮切りに今季ワーストの6連敗を喫し、優勝争いから脱落しました。打者は1球でリズムを崩すケースがあります。各打者が山本昌の投球術に、のちの試合に影響するまで打撃を狂わされたとも言えます。
阪神ファンは落胆したでしょうが、ベテラン左腕の活躍は同年代の方々の励みとなったはずです。山本昌に限らず、選手の寿命は一昔前に比べて大きく延びました。40歳以上の現役選手は現在、12人もいます。栄養バランスを考えた食事や科学的なトレーニングなど日々の積み重ねのたまものでしょう。素直に拍手を送りたいのですが、一方で寂しさも感じてしまいます。彼らに限らず、各球団のレギュラーの高齢化は、若手の突き上げが少ないという現実でもあるのです。
選手寿命が延びた最大の原因は、年俸の高騰です。巨人・阿部の6億円(推定)を筆頭に3億、4億をもらっている選手がゴロゴロいます。一昔前は1億円選手が超一流の証しでしたが、レギュラーを5年も続ければ簡単に億の位に手が届くようになりました。それだけのお金をもらえるとなれば野球を真面目にやるし、野球にしがみつくようになるでしょう。私たちの時代は一生懸命やっても給料が上がらなかったのですから。
私の例で見ると83年には打率2割9分6厘、33本塁打、93打点の成績を残しましたが、球団からの提示はダウンでした。交渉で現状維持となりましたが、今の時代なら大幅アップは間違いないでしょう。巨人のエースだった江川も15勝で減俸だったと聞きます。タイトルを取るか、最低でもタイトル争いをしないと昇給しなかったのです。もしくは、西武・石毛のように常にチームを優勝に導く活躍をするかです。なまはんかなことでは年俸が上がらない時代でした。
今の時代はタイトルなんか取らなくても、お金がもらえるのです。打者なら2割8分、20本、投手なら10勝10敗の成績を毎年残せば、億を超えるお金で長く野球を続けられます。目の前に最多勝やホームラン王がぶら下がっていても、長生きするため無理しないのも当然といえば当然です。
阪神Vのための「後継者」育成哲学を書いた掛布DCの著書「『新・ミスタータイガース』の作り方」(徳間書店・1300円+税)が絶賛発売中。