前回、“ビートたけしの付き人のお仕事”について書かせていただきました。
テレビの中のビートたけしに恋焦がれ、運だけで弟子となり、「殿」と呼ぶことを許され、憧れだった人の付き人になるわけです。それはもう大変幸せな出来事であり、苦労や不満といった感情を抱くことなどあるはずもありません。が、そこは“やってみないとわからない苦労”といったものがないこともないのです。
そこで今回は、ビートたけしの付き人だからこそ味わえる、そういった“取るに足らない小さな苦労”について書かせてください。
今はタバコを吸われない殿ですが、わたくしが付き人を務めていた、96年から02年の間は、まだ日に2箱ほどおタバコをお吸いになっていました。
師匠がタバコを吸うという、ただそれだけの行為であっても、付き人はなかなか大変なものなのです。
説明します。殿から「おい(煙草をくれよ)」といった、小さなジェスチャーが入る。付き人はすぐさま取りやすいよう、タバコを1本、少し箱から抜き出し、差し出します。殿がタバコを抜いて口元へ運ぶ。すぐさま付き人は、どこかで見たヤクザ映画のワンシーンかのごとく、すばやく右手でライターに火をつけ、左手は風よけのために添え、両手を駆使して火をお付けします。
“たったこれだけの動作”ですが、この動作のどれか1つでもうまくいかずモタモタしていたりすると、せっかちな殿からすぐさま、
「何やってんだよ!」
といった、軽いツッコミが入ったりします。当たり前ですが、殿も真剣に怒っているわけではなく、ただ、面白がってツッコんでいるだけです。
が、それも時と場合によっては、同じ小さなミスでも違ってきます。
例えば「北野映画」の現場で、技術的なミスが重なり、撮影がなかなか進まず、長い待ち時間が発生したりすると、さすがの殿も明らかにイラつき出します。こういった時、付き人が何らかの小さなミスを連発すれば、当然イライラを増長させることになり、
「さっきから何やってんだよ! 気が利かねーな!」
といった、大変厳しいお叱りの言葉を、険しい顔で浴びせてきます。憧れだった人から、どんな理由があろうと、険しい顔で叱られるのは落ち込むものです。