「吸血鬼」と聞いて真っ先に思い浮かぶのは、東欧ルーマニアのドラキュラ伯爵だが、スラブ民族の間では、ポーランドでも4世紀頃から吸血鬼にまつわる伝説が存在する。確かにスラブ民話には「吸血鬼は人の生き血を飲み、吸血鬼に殺された者は吸血鬼として復活する」といった、ドラキュラ同様の物語が多く残されているのだ。
そのポーランド北東部ルジノの村にある19世紀の墓地付近で今年、450体もの首のない遺骨と、バラバラになった大量の骨が納められた3つの納骨堂が発見された。地元では「これはまさに吸血鬼の首をはねた後、遺体を埋葬した集団墓地に違いない」として、吸血鬼伝説が再燃している。
「ポーランドでは2015年に、北西部のドロースコ村で、5体の遺骨が見つかりました。これは吸血鬼と疑われたことで、鎌で首を固定され、動けなくなって亡くなったと思われるものです。これ以降、毎年のように同様の遺骨が発見されている。今回発見された遺体の大半は、切り落とされた頭部が脚の間に置かれ、口の中にはコインがあったといいます。この奇妙な埋葬方法は、19世紀のポーランドで一般的に行われていたもの。首を落として口にコインを入れるのは、吸血鬼の呪いを打ち消し、死者がこの世に戻って生者を襲わぬよう、その力を奪うための行為だとされます」(東欧史に詳しいジャーナリスト)
なお、ポーランドにおける吸血鬼は、男性より女性が多いとされ、2022年にとある村の墓で発見された女性遺骨も、首に鎌をかけられて起き上がれないようにされた上、左足の親指には南京錠がかけられていたという。
「当時の人々は、吸血鬼になった死者は必ず蘇り災いを及ぼす、と信じていました。そのため、まずは首を切り落とし、墓から出られぬよう鎖で括り付けた。昨年見つかった女性の遺骨の中には、脚や腕、頭のそばにレンガが積まれていたものもあったといいますから、人々がいかに吸血鬼に恐れおののいていたかがわかります」(前出・東欧史に詳しいジャーナリスト)
さらには死者のそばに、定番であるニンニクや十字架、聖水などを置く、心臓に木の杭を打ち込む、あるいは遺体を鉄の棒で地面に釘付けにするといった残虐な方法で、吸血鬼の蘇りを封じ込めていたとされる。
新たに発見された450体もまた、そうした運命を辿った末の姿なのだろう。
(ジョン・ドゥ)