史上最低の社長会見だった。自動車保険の保険金不正請求問題が明るみになった中古車販売大手ビッグモーター(東京)の兼重宏行社長が7月25日に開いた記者会見は、言い訳のオンパレード。
「板金塗装部門の不正請求問題は板金塗装部門単独で、ほかの経営陣は知らなかった」
「本当…耳を疑った。もうこんなことまでやるのかと、愕然としました」
「現場に入ってよく見とけばよかった」
知らぬ存ぜぬの弁解ついでに、社員への責任転嫁に躍起だったのである。
社長のアキレた言い分はともかく、ここまで大掛かりな保険金不正請求がなぜ、今まで発覚しなかったのか。ビッグモーターには巨大な後ろ盾があったからだ。
そのひとつが損害保険ジャパン。損保ジャパンは2011年以降、ビッグモーターに計37人もの出向者を出していたことが明らかになっている。兼重社長が記者会見で言及した板金塗装部門の管理職も、損保ジャパンからの出向者だという。
本来なら損保ジャパンの自動車保険に加入している車両が物損事故や自損事故を起こした場合、支払われる保険金を算定するため、損保ジャパンの「保険調査員」や「損保アジャスタ」と呼ばれる専門職が現地確認し、破損箇所をチェックして保険金を決める。
ところがビッグモーターの場合、保険金を請求する側も請求金額をチェックする側も「損保ジャパン」の社員。このため金融庁は、保険業法に基づく報告徴求命令(事実関係や財務状況などの報告要求)を損保ジャパンに出すことも視野に入れ、調査に乗り出すと表明した。
さらなるビッグモーターの後ろ盾が、同社の監督官庁である国土交通省、そして警察庁だ。
ビッグモーターに37人の出向者を出した損保ジャパンの顧問職は「国土交通省と警察庁の天下り指定席」。平成25年まで警察庁長官だった片桐裕氏をはじめ、宿利正史氏、藤田耕三氏、本田勝氏ら歴代の国土交通省事務次官や同省局長クラスが、損保ジャパンの顧問に就任しているのである。
特に本田氏は羽田空港などの施設運営を手掛ける「空港施設」の乘田俊明社長らに対し、国土交通省OBの副社長を社長に昇格させるよう要求していたと朝日新聞に報じられ、今年5月に東京地下鉄(東京メトロ)会長を辞任した、いわくつきの人物。言語道断な天下りに支払われる役員報酬と高額年金の原資は、我々が支払っている「自動車保険料」「損害保険料」そして「年金積立金」だ。
群馬県や兵庫県のビッグモーター店舗周辺の街路樹が枯れた「器物損壊」案件にしても、兵庫県警の元幹部が損保ジャパンに天下っており、公正に捜査されるのか、わかったものではない。
金融庁はどこまで「ビッグモーター」「損保ジャパン」「国土交通省」という疑惑のトライアングルに切り込めるか。
(那須優子)