尾形大作といえば、1986年の「無錫旅情」が130万枚を超える大ヒットとなった演歌歌手として知られるが、いわゆる「一発屋」である。87年と88年のNHK紅白歌合戦に初出場したが、その後、ヒット作は聞かない。シブがき隊やシンガーソングライターの竹本孝之と楽屋で喧嘩した「武勇伝」が語られる程度である。その尾形が衆院大阪18区(岸和田市など)から自民党公認として出馬することになった。
尾形を候補として決めたのは、茂木敏充幹事長だ。大阪では日本維新の会の躍進を受けて、自民党は衆院選や統一地方選で惨敗した。そこで次期衆院選における大阪の10の小選挙区について、党本部主導で公募による選考を行った。
8月2日に茂木幹事長が大阪市内のホテルで記者会見し、公認候補予定者となる新たな支部長を発表。そこで新人の尾形が選ばれたのだった。指名された尾形は、驚きの言葉を口にした。
「歌の仕事で政治のことはほとんどわかりませんが、支えていただいた全国のファンの皆様、そして大阪府民の皆様の気持ちを胸に抱いて、命懸けで」
まさに知名度優先の選考が見え見えである。大阪とは縁もゆかりもない福岡出身の尾形が「落下傘候補」として突如、舞い降りてきたことに、府連関係者は次のように吐き捨てるのだった。
「党本部が目指す刷新どころか、遺恨を残すだけ。茂木さんはマッキンゼー仕込みのコンサル手腕で大阪を本気で立て直そうとしたのか、失望した」
「無錫旅情」の歌詞には「ごめんよ もいちど 出直そう 今度は君を 離しはしない」とあるが、府民の心はますます自民党から離れるだけだろう。