北海道・ススキノ(札幌市中央区)といえば、風俗店や飲食店のきらびやかなネオンがともる一方、繁華街のいたるところに悪質な客引きが跋扈。「ぼったくりの街」としても有名だった。ところが、その客引きの数が激減しているというのだ。
「悪質な客引きが観光客を狙い撃ちしていたのは、昨年までの話。今は女性でも安心して歩けるし、男性客からぼったくりの被害を聞くことがなくなりました」
そう語るのは、ススキノ近辺を流しているタクシー運転手だ。北海道随一の繁華街としてグルメにフーゾクと事欠かないススキノだったが、その一方で酔客や観光客を狙い撃ちにした悪質な客引き行為をするポン引きや、黒いスーツを着て女性を風俗店などに紹介する「カラス族」と呼ばれるスカウトマンたちが街で目立つようになっていたのも記憶に新しい。
そこで、札幌市では迷惑をかける風俗営業などの勧誘行為への対策を講じるため、05年12月から通称「ススキノ条例」を施行。翌年にはカラス族の姿は街から消え、客引きは約80%も減少した。だが、それも一時的な現象にすぎなかった。地元紙記者が振り返る。
「特に東日本大震災で客足がガタ落ちすると、紹介先の店から手数料をもらっていた客引きだけではなく、売り上げを伸ばすために、従業員を街角に立たせる店が増えてきました。捕まっても罰金だけだし、店によっては肩代わりして支払ってくれるケースもあり、客引きにとって条例の意味がなくなったのです」
だが、そうした事態が一変したのは、12年に入ってからのこと。20年の東京五輪の招致運動が本格化する中、札幌も26年の札幌五輪に名乗りを上げたことで、行政と警察が、ススキノの浄化作戦を本格化させ、状況が激変したというのだ。
「上田文雄札幌市長が定例会見で、26年の冬季五輪大会招致に強い意欲を見せています。五輪開催の経済効果は道内だけでも7737億円。札幌が成長するための起爆剤として考えており、招致するためには、まずススキノの治安改善に動きだしたのです」(前出・地元紙記者)
今年3月には、性風俗店と客引きの関係を絶つために、札幌中央署は性風俗店やキャバクラ(ススキノではお触り可能なセクキャバのことを指す)など、店側の取締りを実施。客引きを利用しないという「誓約書」の提出を要請しているという。ススキノのキャバクラで働く従業員はこう語る。
「2年くらい前なら、過激サービスを提供しているキャバクラ店があっても、ほとんどの場合は、まず警察から注意を受けるだけだった。最近では、過激な内容がネット掲示板に書かれたりして話題になると、すぐに警察が動いて摘発されてしまいます」
実際に10月初旬の週末、ススキノを歩いてみると、多くの人が行き交う交差点付近に複数の客引きらしき男性が立っていたが、声をかけてくるのはわずか1人のみ。かつて、観光客の両肩に腕をかけ複数のポン引きが上着の袖を引っ張り合った光景は、今や過去のモノとなっているのだ。ススキノの風俗情報を取り扱う「無料案内所」で働く男性もこう話す。
「紹介できるのはニュークラブとキャバクラまで。風俗に行きたいなら、店のパソコンで勝手に調べて行ってください。警察の目が厳しくてその手の店を紹介できない決まりなのです」
本格的な観光シーズンである冬を迎えようとしている札幌。観光客や出張サラリーマンにとっては、わずらわしい悪質な客引きに惑わされず、好みの店を見つけることができそうだ。