だが、専門家が異口同音に警鐘を鳴らすのは、神奈川県と静岡県にある箱根山だ。箱根といえば、温泉地で知られる人気観光エリア。観光客は昨年、3年ぶりに2000万人台を回復。今年の冬も観光客でにぎわうことが予想されているだけに、現状では噴火警戒レベルは1(平常)が続いているが、13年1月~3月までに体に感じない地震が約2000回と、群発地震などの火山活動が活発化していると専門家は指摘する。
「噴煙地として湯気がボンボン出ている『大涌谷』は観光客が多く訪れますが、活火山の噴火口だと思って近づいている人は少ない。噴火すれば御嶽山より小さい規模でも、観光客の数を考えれば被害は大きくなります。観光客に火山としての危険性が周知されていないのは、御嶽山とまったく同じ。防災担当者の情報を伝えるリスクコミュニケーションの低さや、国民の自然災害に対する教育レベルの低さなど、課題が浮き彫りになりました」(山元氏)
今回の御嶽山の噴火は、火山を擁する観光地に、大きな“課題”を突きつけたのも事実だ。那須岳のお膝元である栃木県内の地元自治体では国や町村などを巻き込んで、臨時の火山防災協議会が開かれるなど、ここにきて災害対策についても真剣に議論が交わされる雰囲気が醸成されつつある。これまで「臭いものに蓋」とばかりに、あまり表立って情報開示がされてこなかった観光地の火山情報も今後、さらにオープン化される期待も高まっている。島村氏が言う。
「これまで、火山に程近い観光地では、観光客の減少を恐れて火山の周辺地域でハザードマップを作成しなかったり、近隣住民だけにしか配布しないことがありました。今回の御嶽山のケースを機に本腰を入れて安全対策が進めばいい」
だが、あまりに過剰に反応して温泉やスキー場から足が遠のくことになっては本末転倒だろう。旅雑誌の「月刊旅行読売」元編集長で温泉事情にも詳しい飯塚玲児氏の提言を聞こう。
「ハザードマップを観光客に渡したからといって、観光客の減少につながるとは思えません。専門家でも見抜けなかった御嶽山の噴火だし、毎日入浴している地元民なら、お湯のにごりや温度の違いで、何か疑問に思う人はいるかもしれませんが、観光客では気づけない。活火山近くの旅行地だからといって、神経質になりすぎるのではなく、まずはリスクを十分に認識したうえで、旅に出ればいいと思います」
御嶽山の噴火を教訓に、安全な旅行を心がけたいものだ。