「親の心子知らず」とはよく言われるが、この時ばかりは世間から「子の心、親知らずだよね」との大合唱が沸き起こった。それが倉木麻衣の実父で「倉木パパ」と言われた山前五十洋氏が巻き起こした数々の騒動だったのではないだろうか。
コトの起こりは2000年9月、山前氏が写真誌の取材に、自分が倉木の父親であり、自身も人気時代劇「天馬天平」の主人公を務めた元俳優だったと明かしたことだった。
倉木はこの年3月にデビューし、ファーストアルバムが400万枚の売り上げを記録。ただ、経歴を明かしていなかった。
倉木と長い間、別居状態にあり、妻とも離婚していた山前氏は当初、彼女が実の娘だとは知らなったという。だが、報道後にはワイドショーに出演して「いい父親じゃなかった」と号泣するなど、一躍、時の人となったのである。
ところがそんな「悲劇の父親像」は、次から次へと報じられる「失踪の原因は借金」「過去に艶系ビデオの監督をしていた」「関西空港で倉木を待ち伏せし、娘に会わせろと騒ぎ立てた」などなどのネガティブな報道により、いとも簡単に崩壊することになってしまう。
倉木自身も事務所のサイトに、複雑な心境を綴っている。
〈幼いころから母や家族が苦しみ悲しんでいるところを見てきました(中略)倉木麻衣の父としてよりも、一高校生の父親として見守っていただきたかったというのが正直な気持ちです〉
ところが山前氏はこれに「事務所の差し金」だと猛反論。11月7日に都内で記者会見を開くと、こともあろうに、倉木の子供時代のビデオを「Mai・Mai=父娘愛情物語」というタイトルで発売すると宣言したのだ。
だがこのビデオ発売は、事務所による裁判所への販売差し止め申請が認められ、断念することに。山前氏を直撃すると、次のような弁明を展開したのだった。
「ビデオ発売の目的は、麻衣ちゃん本人から連絡がほしいというメッセージで、お金目当てじゃないんです。私を騙した妻と事務所の社長に謝ってほしかった。それだけなんです」
そんな舌の根も乾かぬ12月上旬、今度は巻頭に倉木の子供時代の写真をふんだんに盛り込んだ告白本「歌姫・倉木麻衣」を出版するというからビックリ。再び都内で出版記念会見を開くが、トーンは相変わらずで、
「借金返済のため? ええ、確かに借金はあります。ただ、生きていて借金のない人はいないはず。これは暴露本じゃないです。僕がいちばん望んでいるのは、麻衣ちゃんとの和解ですから」
その後も、娘と名前が1文字違いの艶系女優のプロデュースに関わるなど、ワイドショーを賑わせた。
そんな山前氏は2017年に心臓弁膜症の手術を受けてからは体調がすぐれず、20年4月5日の朝、心不全で亡くなっていたことが明らかになる。76歳だった。
4月7日、倉木は所属事務所を通じてコメントを発表した。
〈いろんなことがありましたが、近年ではライブを見にきていただいて、差し入れなど入れていただき、陰ながら見守っていただいていました〉
騒動から二十数年、こじれた父娘の関係は、静かに雪解けしていたようだ。
(山川敦司)
1962年生まれ。テレビ制作会社を経て「女性自身」記者に。その後「週刊女性」「女性セブン」記者を経てフリーランスに。芸能、事件、皇室等、これまで8000以上の記者会見を取材した。「東方神起の涙」「ユノの流儀」(共にイースト・プレス)「幸せのきずな」(リーブル出版)ほか、著書多数。