半世紀を超える日本のプロレス史において、2000年代初頭に登場した「ハッスル」は、ギミック満載の派手な演出と高いエンターテインメント性で、既存のプロレスに新基軸を打ち出した。プロレスファンと総合格闘技ファンのみならず、サラリーマンやOL、家族連れなど、全ての世代を取り込む興行スタイルで人気を得ていた。
そんな「ファイティング・オペラ」に2004年から3年半にわたり参戦し、「愛と美と闘いの女神!インリン様」として花を添えてきたインリン・オブ・ジョイトイ。5歳下の、プロレス団体「ゼロワンMAX」社員(現在の夫)との抱擁ショットが写真誌に掲載されたのは、2008年4月初旬だった。
取材に対し、インリンは「昨年秋から交際しています。とても尊敬できる人」とコメント。ただ、自身のブログには〈私なりに真剣に考えていた色々タイミングが狂って、たくさんの誤解も生じ、人間関係もおかしくなりなりそうになった。(中略)他人を利用して、自分だけが得しようなんて人間には負けない〉と意味深な発言。そして突然、「重大発表」と題して記者会見を開き、引退を発表したのである。2008年4月18日のことだった。
会見に際し、彼女はこう言った。
「先日、あたかも私が結婚したかのような事実無根の報道がなされましたが、今回の活動休止とその件とは全く関係ございません。揺るぎない思想と哲学を持つインリン様は、闘いの場にはプライベートは絶対に持ち込みません!」
ここでも、コメントはあくまでも「インリン様」。そして5月24日、有明コロシアムで涙の引退試合を飾り、「ハッスル」を卒業することになる。
引退後の9月に結婚した彼女は、4月の苦渋に満ちた会見はなんだったんだ、というほど、夫にデレデレ。9月30日に行われた映画のPRイベントでは、ノロケ全開である。
「毎日一緒にいられて、とにかく幸せ。彼を見ていると、癒やされます」
それは雑誌のインタビューでも同様で、
「家事をしていると夫が後ろから抱きついてきたり、足を舐めたり」
仕事では封印したとするM字開脚も全開だと告白。「ハッスル」したこともあったのだろう、翌年2月15日には、公式ブログで胎児のエコー写真を掲載し、妊娠4カ月であることを報告した。
そんな彼女が2010年10月1日、出産後、初めての公の場に現れるとあり、東京・お台場で行われたトークショーに取材に出かけたのだが、
「甘えん坊で抱っこが大好きで、母乳が欲しい時にいちばん泣くんです。さっきも胸が張ったので、トイレで母乳を絞ってきました」
なんと、のっけからママモード全開。艶路線復活を期待したファンはガックリだ。その表情からは、過激なグラビアで世の男性たちをドキドキさせた、かつての面影は完全に消えていたのである。
(山川敦司)
1962年生まれ。テレビ制作会社を経て「女性自身」記者に。その後「週刊女性」「女性セブン」記者を経てフリーランスに。芸能、事件、皇室等、これまで8000以上の記者会見を取材した。「東方神起の涙」「ユノの流儀」(共にイースト・プレス)「幸せのきずな」(リーブル出版)ほか、著書多数。