なぜ駅のベンチは青色が多いのか。色だけでない。最近、ベンチの向きも90度変わった。コレには深い意味がある。ベンチの色と向きによって「転落死」「人身事故」が防げるのだから。
この取り組み、JR西日本が酔っ払って線路に転落した乗客の行動特性を検証、研究したのがキッカケだ。「酔っ払いのホーム転落」はアニメやドラマに出てくるような、寿司の折り詰めを持って頭にネクタイを巻いたベタな酔っ払いが、ホームの端をフラフラと歩いていて落ちるのではない。実際には飲みすぎてベンチに座っていた酔っ払いが、電車の接近を知らせるアナウンスなどで急に立ち上がり、そのまま線路に向かって突進することで起きていた。近づいてくる電車やホームとの距離感が測れず、タイミングが悪いとホームに侵入してきた電車と接触することになる。
そこでベンチの角度をホーム側に90度、または線路に背を向けるよう180度変えたところ、一定の転落防止効果があったという。かつては毎日のように人身事故で止まっていたJR東日本の総武線快速などでも、これによって「転落死」を防ぐ効果が出ている。
衝動的に電車に飛び込もうとする自殺企図者であっても、顔と体の向きを90度、180度変えるという「ワンアクション」「視点や注意の関心を変えさせる」ことで、その衝動を抑えられることが、WHO(世界保健機関)や国際学術団体などの研究でわかっている。幼児や認知症老人、精神障害者を窓に背を向けるよう椅子に座らせることで転落事故を防ぐなど、医療や介護の現場だけでなく、育児にも応用が効くのだ。もちろん窓は、常に施錠しておくのだが。
さらに色彩心理学では「青色」には気持ちを落ち着かせる効果があるとされ、JR東日本のほか、小田急や京成など、青いベンチを導入する鉄道会社が増えている。
2020年の新型コロナ流行以降、日本国内で小中高の子供の自殺件数は過去最悪を更新し続け、2022年には514人と、年間500人を超えてしまった。とりわけ急増するのは、夏休み明け。親や教師が注意するのはもちろん、9月1日に駅や踏切になんとなく様子がおかしい子供がいたらひと言、周りが声をかけるだけでいい。「なにこのオッサン、キモい」「オバサン、うざい」と思わせることで、線路に向かった足が止まる。
今は文部科学省が「中卒、高卒認定試験」を設けている。学校に行かずとも中学卒業と高校卒業の同等資格を取得できるので、学校に行かないからといって人生、詰んだわけではない。学校に行くことより大切なのは「自分の心と気持ちを大事にする」ことだ。
(那須優子/医療ジャーナリスト)