まずは新名人の栄冠を引き寄せた、名人戦第5局の2日間のメニューから。1日目の午前中のおやつは、杏子ジャムとバタークリームを使った銘菓「一万石」とアイスコーヒー、昼食は「信州ポーク勝カレー」、午後のおやつがレモンのオペラケーキと白ぶどうジュース。勝負の2日目は午前のおやつにフルーツスフレロールとアイスコーヒー、昼食に信州そばと天ぷら膳、午後のおやつが高山村産ふじ100%リンゴジュースとアイス緑茶だった。
「藤井さんの勝負メシを見ると、主要なエネルギー源の炭水化物を中心に、牛、豚、鶏、海鮮などの良質なたんぱく質をバランスよく摂り入れています。なお、1日に食した信州ポークの勝カレーは、豚肉にビタミンB1が豊富に含まれ、これは糖質を素早くエネルギーに変える働きがあります」(川上氏)
同対局が開催されたのは、長野県高山村の高級旅館「緑霞山宿藤井荘」。同じ名前の宿のカツ(勝)カレーを頼んだのは、ゲン担ぎの意味もあったのだろうか。松本氏が言う。
「棋士の中には、食事メニューを考えることに手間を取られたくない、という人もいます。例えば、ともに名人戴冠の経験がある森内俊之九段(52)や佐藤天彦九段(35)は、ほとんどハズレがないという理由で、2日目は必ずカレーを頼みます。藤井七冠はそれに比べて、割と何でも食べる印象。苦手なキノコ類は別ですが(笑)」
藤井新名人のキノコ嫌いは有名で、今年の対局でも会場となった旅館がわざわざキノコ抜きメニューを提供したことも。これは1月21日の王将戦第5局1日目のことで、必要な栄養素が足りなかったのか、挑戦者の羽生善治九段(52)に惜敗している。
また、特徴的なのは対局2日目の午後のおやつだ。菓子類ではなく、ドリンクを2種類注文している。藤井七冠は、ここぞという勝負どころの午後のおやつに、「ドリンク二刀流」をぶつけてくるのだ。
実際にタイトル奪取、あるいは防衛した対局を振り返ると、3月12日の王将戦第6局ではカシスソーダとオレンジジュース、六冠獲得となった3月19日の棋王戦第4局(対戦相手=渡辺棋王)ではオレンジジュースとアイスレモンティー、そして菅井竜也八段を退けた5月28日の叡王戦第4局でも開催地である岩手県宮古市の名産である「かわいペリーラ」(紫蘇ジュース)とアイスレモンティーを注文している。実はここにも必勝効果が隠されていたのだ。