大谷翔平の姿に感動すら覚える。右肘靱帯の損傷が発表され、今シーズンは投手としては出場しないことになった。普通の選手なら打者での出場もあきらめるし、球団も無理させない。日本人初のホームラン王の夢も消えると思われた。ところが、大谷は何事もなかったかのようにDHで出場して、今まで通りのフルスイングを見せている。
自分のためだけでなく、ファンの期待に応えたい思いもあるはず。朝からテレビの前で多くの人が応援しているし、日本人だけでなく世界中の野球ファンが注目している。アメリカでも「将来は二刀流選手になりたい」と憧れている子供たちがたくさんいる。長嶋さん、王さんら、昭和のスーパースターがそうだったように、大谷も試合に出る使命感を感じていると思う。ほんまに大した男やで。
打席の中では痛そうな表情も見せないし、今のところバッティングに関しては右肘の影響はなさそう。でも、まったく違和感がないということはないはずやで。投げられないほどの状態なんやから。内角よりも外角の球に腕を伸ばして打つ時に患部に負担がかかるのとちがうかな。
僕は左肘の経験はないけど、右肘は関節を痛めながら試合に出ていたことがある。普通に振る分には問題なかったけど、詰まった時に痛みが走った。だからファウルにせずに1球で仕留めるために、いつも以上の集中力で打席に立っていた。休んだ方が治るのは早かったかもしれんけど、試合に出続けながら、いつの間にか治っていた。
大谷がこのまま試合に出ていれば現在、トップに立っているホームラン王の確率は非常に高い。打点王も他の選手のお膳立てが必要やけど、十分に射程圏内。打率も3割を上回っており、首位打者の可能性もないことはない。投手ではタイトル獲得を逃したけど、打者の方は楽しみがいろいろ残っている。僕が注目しているのは盗塁数。打者に専念するようになって、数が増えている。30盗塁が見えてきたので、3割・30本・30盗塁のトリプルスリーをぜひ実現してほしい。
盗塁による疲れやケガを心配する声もあるかもしれんが、疲れなんか一晩寝たら取れるし、足から普通に滑り込んでいる限りケガはない。むしろ、打撃に好影響を与える。試合でMAXの集中力で走ったダッシュの一本は、練習での何本ものダッシュに相当する。自然と足腰が鍛えられるし、体のキレが増す。打って、投げては無理になったけど、打って、走っての活躍は続けてほしい。
開幕前はWBCでの世界一で多くの日本人を勇気づけてくれた。例年のシーズンより早めの調整が、今回の故障に影響あったのかどうかはわからない。巨人の大勢らは間違いなくWBCが影響したけど、大谷の場合は100年に一人の選手で、そういう次元の選手ではない。状態は詳しくはわからないが、あのフルスイングを見ていると重傷とは思えない。手術もせず、来年の開幕には普通に投げていても驚かない。
シーズンが終わればFAの争奪戦が待っている。とんでもないオファーが届くはず。エンゼルスで2ケタ勝つんやから、優勝を争うチームならどれぐらい勝てるのか。最多勝と本塁打王を狙うヒーローなんて漫画でも恥ずかしくて書けない設定。どこのユニホームを着るのか興味は尽きない。
福本豊(ふくもと・ゆたか):1968年に阪急に入団し、通算2543安打、1065盗塁。引退後はオリックスと阪神で打撃コチ、2軍監督などを歴任。2002年、野球殿堂入り。現在はサンテレビ、ABCラジオ、スポーツ報知で解説。