ロシアがウクライナで戦争をしている今だからこそ、同じ〝ならず者国家〟同士、距離を縮めておこう。そんな思惑を抱えながら、140キロ以上もの巨体をゆさゆささせ、劣悪な専用列車でロシア入りした北朝鮮の金正恩総書記(39)。だが、国内を振り向けば、強盗やレイプ、殺人、果ては爆弾テロと、治安の悪化に歯止めが効かず、政権崩壊へ待ったなしの状況となっているという。
先頃、韓国の国情院が国会に行った報告では、今年1〜7月に北朝鮮で起こった凶悪犯罪が昨年に比べて3倍に急増。強盗や殺人事件はおろか、平壌郊外でも爆弾テロが起こるという不安定な情勢となっているという。
食糧不足で飢餓に苦しむ地方ならともかく、平壌近郊など都市部での爆破事件となれば穏やかではない。北朝鮮情勢に詳しい「コリア・レポート」の辺真一編集長が、最新事情を解説する。
「北朝鮮情勢について、韓国メディアはよく飛ばし報道を行いますが、政府機関の国情院の情報となれば無視はできない。では何を根拠に3倍と言っているかと言えば、その辺りは少々薄弱です。ただもともとの食料不足に、ここ3年以上コロナ禍で国境が閉鎖されていただけに、北朝鮮も国民の疲弊はそうとう深まっていることは確か。それで3倍という数字になっており、おおむね正しい見方と考えてよいでしょう」
実際、平壌の公園で寝ている人から携帯電話を奪おうとしたあげくに相手を刺し殺したり、同僚との食事の支払いでモメごとになりやはり相手を刺し殺すなどの事件が多発。あるいは平壌近郊で物資を狙ったと思われる爆破事件が起こって、数人が死亡するなどの凶悪事件が連続しているというのだ。
「もちろん、日米韓でも凶悪犯罪は起こる。ただし、北朝鮮は徹底した統制・監視社会ですから、これだけの大規模な犯罪が起こっているということは、個人よりも組織的犯罪が増えていることを意味している。欧米のマフィア、日本のヤクザのようなシンジケートが、組織的に窃盗・強盗を行っているのでは。爆破事件も、配給社会で食べていくのもやっとのため、集団で配給元を襲って国家の財産を奪おうとしたものと思われます。さすがに金正恩もこれを問題視し、6月には最高の意思決定機関である労働党中央委員会で、昨今の風紀の乱れを問題視し、対策を命じています」(前出・辺氏)
こうした国内治安の悪化の責任を取る形で、近く首相の金徳訓氏が更迭されるという憶測まで出ているほどだ。
その一方で、北朝鮮は近年ミサイルの発射を繰り返している。8月30日の夜には、戦術弾道ミサイル2発を日本海に。その3日後の9月2日には、巡航ミサイル数発を黄海に向けて発射している。そんな余裕があるのならば、まずは国民を食わすのが先決だろうに‥‥。
ところが辺氏によれば、「それはまた別の話」になるらしい。
「極端なたとえでは、スポーツ選手が五輪で金メダルを獲ることに反対する人はいないでしょう。軍事的成功は国威発揚に欠かすことができません。それは一般市民でも事情は同じ。国内の不満をそらす意味でもミサイル発射は不可欠なことなのです」
肝心の国民は飢える一方で、このまま組織犯罪がはびこり、爆破事件が連続すれば、金正恩体制も危うくなると言われている‥‥。