「この味がいいね」と君が言ったから七月六日はサラダ記念日。
タイトルになったこの一句に、鮮烈な思いを抱いた読者は多かったことだろう。1987年に出版され、280万部に及ぶベストセラーとなった俵万智の短歌集「サラダ記念日」だ。現代口語で歌われたその新鮮さは、多くの人の心をつかんだのだった。ところがその「サラダ記念日」に食べたのは、サラダではなかったとしたら…。
なんと俵自身が9月25日の情報番組「あさイチ」(NHK系)に登場すると、
「実はサラダ記念日に食べたのはサラダではなく、カレー味の唐揚げでした。響きがいいのでサラダにしました」
と告白したから驚きだ。歌集を何冊も出版している詩人が、苦笑交じりに言う。
「詩は心の情景をつむぐ作業なので、本当のことしか紡げないわけではありません。フィクションを綴ってもいいのですから、そんなに驚くこともないのでは。とはいえ、与謝野晶子や金子みすゞ、茨木のりこにしても、女性詩人みな溢れ出る感情を表現していますし、その詩によって女性たちは生きる力をもらっていたり、あるいは癒されたり、悲しみを鎮めたりします。ある種のショックは理解できますが…。ただ、当時読んだ男性はサラダ記念日を話題にして、妻や家族との食卓で幸せを噛みしめていたと聞きます。そうした世代には、サラダ記念日が実はカレー唐揚げ記念日だったというのは、衝撃的かもしれません」
なるほど、MCの博多大吉は「けっこうオレ、ショックなんだけど…」と言葉を失うわけだ。
サラダを食べて心が洗われた経験がある世代には違和感が走るものの、
「新たにファンになった若者からは、驚きよりもむしろ、面白いとの声がありますね」(出版関係者)
「歌は暮らしの中から生まれる」と常日ごろ語っている俵。まさにその通りであり、「様々な側面」が存在するのである。俵は番組で、こう言っている。
「実際に自分が感じたことを伝えるためだったら、そのためのウソはついても大丈夫」
(小津うゆ)