話をライブ2日前に戻しましょう。
「ニュースキャスター」放送後の定例である、翌週の打ち合わせ中も、自然と2日後のライブの話になると、
「あれだな。明後日はよ、幕が上がったら坊主が舞台の真ん中で延々と般若心経読んでよ、そのままずーっと2時間やって終わらせちまうか!」
と、そんなことしたら、暴動が起きかねない“おふざけ”を口にし、周りから一斉にツッコまれると、
「だけどお笑いのライブをやるって言った覚えはねーんだから、別に何やったっていいじゃねーか!」
と、明らかに間違った開き直りを見せていました。
そんな殿も、内心は少し心配だったようで、帰りがけ、ややまじめなトーンで、
「まーライブは大丈夫だな? いざとなったら全然関係ない話をしたっていいしな」
と、“もし当日、準備していることがウケなかったら、すぐに方向転換をしてトークで逃げ切ろう”といったニュアンスを含む発言をポツリと漏らし、帰っていかれたのでした。
ライブ当日、この日の殿は、お昼からお台場方面でテレビの収録をこなすと、17時少し前、無事に会場入りされたのです。そして楽屋に入ってきた殿は、一服する間もなく、すぐに、
「舞台見れんの?」
と切り出すと、到着されてわずか1分後にはリハーサルを開始されました。
で、10分程、舞台上から入念なリハーサルをされた殿は、楽屋に戻ると、そこから19時半の本番まで約2時間、恐ろしいまでのハイテンションで、猛烈に喋りまくったのです。
楽屋に次から次へと挨拶にやってくる、知人や友人、そして普段一緒にお仕事されてるスタッフさんを相手に、一切休む間もなく、完全に漫談口調となって喋り倒す殿のお姿に、わたくしが何度も、「殿、まだ本番まで2時間あります。抑えましょう。抑えましょう」と、冗談半分、本気半分にツッコむと、
「ほんとだよ。これじゃ本番もたねーよ!」
と、一時は10秒程静かになるのですが、またすぐ、
「だけど昼からテレビの2本撮りで喋ってきてよ。ここでまた喋って、本番舞台でまた喋るんだろ。うちの事務所は悪魔だな!」
と、“オイラが喋っているのは、あくまで事務所に無理やり働かされているからであり、強制的に喋らされている”といった、まったくもって自分本位な見解を、結局また漫談口調で喋り出すのでした。
とにかく、この日の楽屋での殿の喋りは凄まじく、その喋りは、本番が近づくにつれ、さらにハイスパートなものへと高まっていったのです。天才ビートたけしも、わたくしたち同様、楽屋からテンションを上げ、さまざまな話題を喋っては、試しているのです。
19時35分、ドタキャンすることなく、無事舞台へ登場された殿は、“7万円のチケットいじり”をまずは軽くやり終えると、沸きあがる「キャー、たけし──!」「殿──っ!」といった恐ろしいほどの大歓声に、
「黙れ3500円の客が! お前らは帰れ!」
と、一言でその場を制す毒舌を軽く炸裂させ、一気に会場を笑いの渦に巻き込むと、驚愕の単独ライブはスタートしたのです。(次回へ続く)